鳩山政権と予算のソフト化・ハード化:高橋洋一・竹内薫『鳩山由紀夫の政治を科学する』

 あの『バカヤロー経済学』が、夕陽のガンマンのように帰ってきたよ。高橋洋一竹内薫鳩山由紀夫の政治を科学するー帰ってきたバカヤロー経済学』。高橋さんから頂きましたありがとうございます。やはり時論の中で、高橋さんが日本にいるといないとでは大違いでしょうw。これは最近読んだ時論の中では、岩田先生の『金融』(全銀協)論文と並んで最も刺激的な著作です。竹内さんという得がたい対話相手を得て、高橋節が冴え渡っていますね。

 本書は鳩山首相を理系宰相として持ち上げながら、この政権の目的関数、制約条件、最適解、小沢陰関数定理を描くことで、いまの日本の政治状況を鋭く描くことに成功しています。網羅的なのですが総論ー各論のバランスがいいので、たとえば人文系の人が好んでいる宮台真司の『日本の難点』と比較して読むだけで、そこのあなたは凡百の思想系・社会学系知識人よりはるかに高い知見を得ることができるでしょう。

 鳩山政権の目的関数は、支持層の幸福の最大化(→生活がよくなること)。もちろんこの最大化が鳩山首相の幸福の最大化=政権の維持にもつながるわけです。さて支持層は、支持母体+浮動票。

 支持母体=日教組自治労、パチンコ業界(連立政権でみると国民新党は郵便局長、社民党市民運動団体)
 浮動票=自民党とは違うことを政治することを期待する人たち→国交省農水省厚労省文科省財務省経済産業省民主党に必要なのでパッシングからガードされている)をたたき、「政治主導」の演出に満足する人たち。

 制約条件は財源。ただし高橋暗黒先生が毎回この問題に現況するときに(笑)ぽい対応をしているのは、これが実際には現状でソフト化しているから(=財政逼迫はごまかし論)。つまり財務省埋蔵金30兆円、国債の追加発行、予算の組み替えでいかようにも現時点ではできる。これは他方で財務省中心の政治的なレント(天下り、公的金融改革の遅れ、郵政民営化見直しなど)の温床になっている。真の非効率性の温床、というのが高橋さんの主張の核心部分だろう。

 この目的関数とソフト化している予算制約で解を求めると以下のような政策順序になるという。

1 浮動層に対して「天下りの廃止と政治主導の演出」
2 日教組(+子供のいる家庭)に対して「子供手当て」
3 自治労(+地方公務員・組合系団体)に対して「交付税の割り増し」
4 予算の兼ね合いで、浮動層に「社会保障制度の充実」
おまけで社民党国民新党の意見を参院選まで極力みる。支持母体のパチンコ業界には我慢(ただしニュースでは次期国会に外国人参政権が議題になるようではある)。

 政権のガバナンスをみると脱官僚というよりも、過去に官僚だった人たち(=過去官僚)への依存(例:古川元久国家戦略室室長、松井孝治官房長官)が実態で、むしろ「脱官僚(した人への)依存」。また内閣府平野博文官房長官がこの過去官僚とトライアングルを形成していて、平野官房長官自体は鳩山首相小沢幹事長への忠実なエージェントとして本書では描かれている。そして鳩山首相の行動は、自身の目的関数に小沢陰関数を考慮していることで、結局、小沢幹事長に自身の目的関数が従属しているかのように解説されているわけである。

 ところで予算のソフト化をハード化する可能性も本書は指摘している。ハード化すればそれだけ目的の実現は困難になる。ひとつは、「政治主導」を演出しているが、事実上は官僚依存であるので、埋蔵金天下り団体に貸し付けている300兆円の資産も返却されないと、当然に予算はハード化していく。また支持層のためにお金を惜しまないのはもちろんなのだが、本書では事実上ネグられているのだが、浮動層を含めて幅広い国民が不利益となる景気の悪化が、浮動層を中心として人々の支持を喪失させることにもつながるだろう。

 本書をもとにすれば、その主張に賛否は別にして、いまの日本の難点について合理的で、なおかつちょっと特定のスパイスがする、見取り図を描くことが独力で可能になるだろう。ぜひ第三弾を期待したい。しかし心なしか竹内氏がテリー伊藤に容貌も受け答えも似ているような気が笑)