西田利貞『人間性はどこから来たか サル学からのアプローチ』

 類人猿の行動がなぜ「経済」に関係するかというと、類人猿の互酬的行動の中に、人間の利己的な交換動機を考えるヒントがあるからでしょう。特に従来、日本の社会科学はなぜ日本人は勤労なのか? という命題を、例えば「家」(会社)、「イエ」、あるいは村落共同体(における宗教的観念)へのコミットが、人々をまじめに働かせる、と解釈する伝統がありました。

 ところが人が勤労であることの証拠は、人類の歴史の中で遍く観察できる現象だといえないでしょうか? むしろ人間の利己的な動機、遺伝子レベルで、「勤労」することが選択されていたら、とりたてて「家」「イエ」「宗教的観念」などに、「近代」的な「勤労」観念の特権的な由来を求める必要もなくなるでしょう。

 そんな関心からこのサル学に注目してます。この西田氏の本はある研究会のテキストなので、昨日読んでいましたが、この分野の教科書的な概説として有益だと思います。僕は他には長谷川寿一長谷川眞理子『進化と人間行動』(東京大学出版会)、本書の冒頭で紹介されている、なぜ現代人は肥満してしまうのかという問い(答えは人は狩猟社会には適応しているが、そのまんまで現代社会に適応できてないから)については、ディラン・エヴァンズの進化心理学の入門書がわかりやすかったです。

人間性はどこから来たか―サル学からのアプローチ (学術選書)

人間性はどこから来たか―サル学からのアプローチ (学術選書)