中川淳一郎『ウェブはバカと暇人のもの』

 暇人のものであることについては、行列を作ってまで人気店で食事をしようとする人たちを例にして『不謹慎な経済学』で書いたことがあるので違和感がない。それと「バカ」というのも形容のしすぎだと思うが、最近も書いたけれども、正直いってプロがネットで発信するもの(官庁情報、新聞社・通信社・出版社などのサイトなど)以外では、あまり参考になるものはない。匿名であっても参考になるものは、それは間歇的なものであるか、あるいはその匿名の人が「プロ」な場合であることがたいていであることが多い。圧倒的多数は、専門的な知識や修練の経験がないのに、専門的な知識を小馬鹿にするか批判するものが多く、正直いって読むに堪えないか、すでに飽きてしまったものが多いのである。海外の経済系ブログが面白いのはそれはほとんどすべてプロが発言しているからである。もちろん経済学自体がかなり汎用性の大きいものなので、いったん経済学の基礎的な知識を習得すれば、それをさまざまな分野に適用して議論することは原理的に可能で、それが第三者から面白いかどうかはその人のセンスに依存する。このセンス自体が基礎的な知識の習得に大きく依存しているのはいうまでもない。もちろんまれにセンスだけで圧倒する人もいるが、そういう人は実に例外中の例外なものである。しかし不幸にもそういう例外中の例外を、自分ができると信じ込んでいる人がかなりの数いることである。

 さて中川氏の本は上記のような僕のブログ歴数年の感慨と非常によくマッチするし、愚痴と恨みことの羅列ととられかねないネットへの感想を核にして、多様な素材をさくさく書き散らしていて一気に読める。特に第3章後半の「集合愚」に関するいくつかの事例は、懐かしくもあり、また笑いをもたらすネタである。ただ第4章の企業関連はあんまり面白くなく、最後の章も無理やり一般論を書いているようでそこは読むのがつらいものがあった。すでにその前までの章で十分、ネットがダメである側面が説得的に記述されているので無用な繰り返しに思えた。おそらくこれを読んでも得るものは何もないだろう。この本の主張に同意するものは、すでにネットは暇人とバカのものであることを十分に経験しているものが多いに違いない。そのような読者(例えば僕だが)にとっては、傷をいやしてくれる面もあるのだが(笑)、あえていわれると本当に、ネット(というかブログだがw)を続ける意欲がますますなくなってこまってしまうのだが(econ2009さんも休むみたいだしw)

ウェブはバカと暇人のもの (光文社新書)

ウェブはバカと暇人のもの (光文社新書)