若者はなぜ三年後によく辞めるようになったか仮説を考える

 ラジオでコメントしたのをひとつの契機に暫定的な考えをまとめてみた。参考文献は、海老原嗣生さんの『雇用の常識「本当に見えるウソ」』とアカロフ&シラーの『アニマル・スピリット』。

 若者の三年離職率激増仮説を調べてみたが、海老原さんの本で紹介されている統計では、93年度卒から増加に転じていて以後、最近3年ほどを抜かして一貫して悪化ないし高水準を維持している。つまり若者が三年たって多くやめるという仮説は、長期停滞によるものではないか、という疑い濃厚である。実際に曲がりなりにも好況に転じてからは微減しはじめていた。

 なぜ三年後離職率が増加したかは、不況で職がみつかりにくいことが大きな要因。このとき若者は、失業するよりも自分の目線を下に落として、(その人からみて)従来では選択しなかったような厳しい待遇の職についた可能性が大きい。これはアカロフ&シラーによれば不況になると(期待)公平賃金が低下すると説明されている現象である。入社した後では、実際には厳しい待遇ゆえに、彼・彼女らが長続きしなかった可能性が大きい。

 公平賃金はあくまで彼らの内面に形成されたアニマル・スピリットであり、それが現実に適応するかどうかはわからない。つまりこういうことだ、自分では目線を下げて厳しい条件でも働く覚悟ができていると思っても、実際に働くうちにその覚悟は破たんしてしまう。これが三年後離職率が高くなる要因ともいえる。

 もちろん同時にあくまでも厳しい職場で頑張る人たちも多い。それが海老原さんが指摘したように、長期停滞の以前からも若者の三年後離職率は高かった=長期不況でもそんなに劇的に離職率は増加していない、ということの理由にもなる。

 公平賃金の切り下げが離職率の増加と減少両面に作用することがポイント。両者の力を相殺して、離職率が増加する方向にふれているというのが、若者三年後離職率増加の真の原因ではないか。

 好況になれば、自分の目線を下にずらす必要がなくなり、むしろ上に向かう(期待公平賃金は上昇する)。好況期の新卒者たちは自分が期待している公平賃金よりも高い待遇を実際に享受する可能性が大きくなるのでこれが三年後離職率を引き下げる方向に作用する。

 一方で好況になると既存の社員たちの公平賃金も上昇するので(いままでよりもましな職場に異動したくなる)、彼らの離職も高まる。 そのためいったん趨勢的に上昇している離職率は、(微減はしているものの)好況になつても劇的に低下することはない。

 こんな風にとりあえず考えていいる。

雇用の常識「本当に見えるウソ」

雇用の常識「本当に見えるウソ」

アニマルスピリット

アニマルスピリット

(補遺)こっそり書くが、小生は長年の渡辺真理氏のファンであり、今回ラッキーにも直接話せた。ミーハー的にうれしいw