竹内薫『バカヤロー経済学』

 小学生のように素直な気持ちで著者が、相方の「先生」とともに、このギトギトの欲望のインセンティブにからまった日本社会を解剖する、誰にでもわかる超経済学入門書である。「先生」の姿が暗黒のベールに隠れて誰なのかがわからないが、「国内外の一流大学で数学と経済を専攻し、政府首脳のブレーンを務めた人物」だそうである。まあ、そういう暗黒先生の正体などどうでもいい。僕らはこの稀有な対談の書をその過激な内容とともに楽しむだけでいいのだ。

 本書は実によく工夫されていて、題名の通りに経済学の知識がゼロであっても一冊読み終える頃には、なんと日本や世界経済を単に経済学の言葉で理解するだけでなく、実にシビアかつ批判的に物事を見る目が養えるのだ。このような書を書いた竹内氏と編集者の企画力には敬意を表したい。

 冒頭から、いまでも広範囲にある誤解の最たるものである「経済学を学べば金儲けになるのか?」というど〜しようもない愚問が愚問である所以を一気に解説し、それでも経済学を学べば人生が豊かになる可能性があることが示唆される。そしてわかりやすい例示とともに、経済学の基本概念(機会費用、比較優位など)がさくっと説明されている。

 本書の「一時限目」は、世界同時不況などの景気の問題である。なんで世界同時不況が起きたのか、そのメカニズムを解明するために、超簡単なインフレ、デフレ、為替制度や円安・円高の意味、経済政策の種類やその意義、さらには金融工学の基本から、やがてはビックイシューである資本主義と社会主義とは何か?どちらがいいのか? まで根本的な問題まで一気に、小学生竹内薫が「先生」の講義をうけてめきめき実力をあげていく。

 もちろんクロウト??というか中級以上の人にもお楽しみは満載だ。例えば、一国だけが財政政策で頑張っても効果なし。でも金融政策とやると効果あり。しかもほかの国と協調して財政政策をやれば効果あり、ということがその理由とともに説明されている。しかも財政政策のうち減税よりも公共投資はアンフェアであり社会にゆがみを与えやすいからあまり好ましくない、こともきちんと指摘されている。あと「外国人のブレーンには要注意?」とした節では、リチャード・クー氏のインセンティブ構造にかなり詳細な突っ込みが加えられている。そして「日本銀行の総裁が凄いバカだって話」などろ大胆?に表現したあと、日本銀行の「引き締めるが勝ち」のDNAを指摘したりもする。

 あんまり書くと全部書きそうになるのでやめるが、第2章では税金の仕組み、第3章が選挙にあたって考える経済問題とその対策などどの政党がちゃんとしているかなど、本当にてんこ盛りである。基本的には、経済学を使えば、官僚や政治家や日本銀行や御用学者や御用ジャーナリストたちにだまされないための知識の使い方が十分に書かれている内容である。

 ここでは一例をあげておこう。御用学者のケースである。御用学者の懐を潤すルートとして、天下り機関の外郭団体にある広告費や広報費、あるいは特別会計にある予算を利用した広告雑誌への出演とか原稿依頼とか、「審議会にいる学者の90%は御用学者」(なぜなら役所の基本方針と違うことをいえば審議会に呼ばれないから。特に継続してはよばれない)という断言も僕の素朴な観察と符合する。ここから審議会での経験年数とその人の所属、経歴、発言内容と当時の役所の政策などをみると実証分析ができるかもしれない。

「学者相手だと、謝礼にあたるお金を研究費として落とせるからですよ。役所から直接出すわけじゃないけど、外郭団体からいくらでも出していてね。もう、その額たるやスゴいんですよ」

第3章はこういった国民のお金でうまいことをしている連中への、著者たちの怜悧なインセンティブ構造への解明が中核だ。そのするどい突っ込みは本当におそるべしである。

本書は、これから迎える政治の季節、そして先が見えない不況をどう生きていくか、どう考えるか、国民のお金にたかっている連中に「バカヤロー!」といいながら読むには最適の読書体験であろう。

竹内氏にはぜひこの「先生」とともに次回作(中学校編?)も頑張ってもらいたいと思う。応援したい。

バカヤロー経済学 (晋遊舎新書 5)

バカヤロー経済学 (晋遊舎新書 5)