浜田宏一『アメリカは日本経済の復活を知っている』

 浜田先生の新刊。形式はエッセイ調であるが、憂国と救国のメッセージに満ちていて、また世界のトップクラスの経済学者たちがどのように日本の経済を冷静にみているかがわかるすぐれた書籍である。また日本の経済問題の核心であるデフレを伴う長期停滞について、それを日本銀行の政策の失敗であること、それを解消するのは、期待(予想)に訴える金融政策を主軸にしたリフレ政策であることが明言だれている。

「結論からいおう。20年もの間デフレに苦しむ日本の不況は、ほぼすべてが日銀の金融政策に由来するものである。白川総裁は、アダム・スミスから数えても200年あまり、経済学の泰斗が営々と築き上げてきた。いわば「水は高いところから低いところに流れる」といった普遍の法則を無視している。世界孤高の「日銀流理論」を振りかざし、円高を招き、マネーの動きを阻害し、株安をつくり、失業や倒産を生み出している。年間三万人を超える自殺者も金融政策とまったく無関係ではない」

ここでいう「日銀流理論」は「金融政策だけでは円高もデフレもとめられない」というものに集約できる。そしてむしろ人口変動とデフレを結びつけるという前代未聞の領域にさえ手を出している一種のカルト的な理論のことである。

 本書は浜田先生が2年ほど前に出版した勝間和代、若田部昌澄両氏との共著を刷新すべく、それから民主党政権と日銀の下でぼろぼろになった日本経済の現状を踏まえて書かれたものだ。また浜田先生がこの期間に行った政策当事者や世界の著名な学者たちへの聞き取り調査(近いうちに専門論文となって公開されると思われる)の成果をもいかした、まさに同時進行中の生きた政策提言の書である。

 ちなみに最近は(主に評論家やメディアが誤解を広めている)リフレ政策についてもきちんと定義されている。

「リフレ政策とは、デフレからの脱却を目指して、二パーセントあるいは三パーセントという、安定的でゆるやかなインフレ率に戻すための政策のこと。その主な手段が、積極的な金融緩和だ」。

 本書では、日銀総裁にリフレ政策に理解のある人材を登用すること(候補者の名前もあげられている)、また日本銀行法の改正がぜひ必要であることが述べられている。

 また政治経済学的な分析も豊富である。日本銀行の行動原理(インフレ回避の強度のバイアス)、日銀の天下り先、空気をよむ日本社会の風土、日銀記者クラブなどの「官報複合体」の弊害など、後半はデフレ下での増税の危険性や、財政問題なども含めて複眼的な視点から、日本問題が論じられている。

 また経済学を知らない人たちが信じている嘘ー例えば「国内金融を緩和しても海外に資金が流れるだけ」−などは、一刀両断だ。

「「国内金融を緩和しても海外に資金が流れる」という意見に関しては、それで何が悪いのだといいたい。資金が流出すれば円安になり、それで輸出需要が増えるからである」。

 安倍新政権が本当に安倍氏の発言のようにリフレ政策をすすめるならば、本書の表題をすこしだけ変えて、「アメリカとこの本の日本の読者たちは日本経済の復活を知っている」と書かせていただきたい。いますぐに読むべき本だ。日本の政策論議鎖国性を打ち破ろう。

アメリカは日本経済の復活を知っている

アメリカは日本経済の復活を知っている

伝説の教授に学べ! 本当の経済学がわかる本

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