宮崎哲弥・若田部昌澄・飯田泰之「経済常識のウソを斬る!」

 紹介した気持ちになってたこの面白座談会(『Voice』6月号)。自分用のメモ書きもかねていくつか論点を整理しよう。

1 景気回復の目線が低く、なおかつ財政政策だけに傾斜しすぎの景気対策。結局はアメリカと中国の回復待ち?

 (コメ)最後のアメリカと中国の回復待ちなんだけど、これはさらに先進国の協調的財政政策による各国のリーケッジleakageからの寄与も見込めるから、というお話もあるだろう。この対外効果は無視できない貢献をするだろうけれども、いかんせん2003年からの輸出効果が効いてた「景気回復」でも結局は十分に日本経済を安定的な経路に戻さなかったわけだから、今回も結局は自国の経済政策の中途半端さを補いきれないように思える(座談会のニュアンスも同じかと)。

2 財政規律を気にする報道が多いの経済記者の勉強不足と役所のくすり(記者は勉強する時間がないので、財務省日本銀行の職員のいうことをそのまま書くのが合理的!)が効きすぎるから

(コメ)きちんと勉強をしている記者も少なからずおられるわけですが、ほとんどはやはり大学の学部レベルで終わりですね。学部の講義では実際の経済問題に応用できるセンスを身につけることができるのか、現在の教育内容を拝聞するにかなり難しいような気がします。コネクションや社内政治闘争に時間を割くよりも国内や国外で大学院の講義でも聞く時間を与えた方がいいのではないでしょうか?

3 財政政策だと乗数効果1.1か1.2.波及効果は3兆円少々(GDP換算0.7%ほど)。座談会後、昨日出てきた数字ではマイナス15%。まったく不足。しかも現状では妙な楽観論が支配してきている。金融政策は相変わらずスル―の状態。マスコミの報道をみると日本銀行は頑張っているということになるが、長期国債の購入も実際には短期債の購入で、実質的に(満期のきた長期債を売却しているので)長期債の買いオペ効果はマイナス! 国会で議決して日本銀行に国際の直接引き受けを行わせる。「禁じ手」という批判を民主党あたりがするが、合理的な根拠なし

(コメ)特になし。全面禿同

4 水野和夫、榊原英資らのイノヴェーション創出のようなミクロ経済政策による不況脱出(ミクロの重視)とマクロ経済政策無効論(マクロの無視)への批判。創造的破壊論によるゾンビ企業の退出は、不況期では財務体力のある旧産業ほど存続し、財務体力のない新産業ほど生き残れない。開業率の低迷へ。むしろ景気がいいときのほうが新陳代謝は進む。産業政策も経済的成果にみるべきものなし。野口悠紀雄のミクロ・マクロ政策完全不実行論は理論的一貫性がある(最近の財政政策の必要論への傾斜)

(コメ)野口悠紀雄氏への予想外の高評価は、この一文をうけてのものである。「(飯田)構造改革論者の多くは、規制緩和を主張する一方で、「未来を支えるような産業には選択的に投資せよ」などと主張したり、理論に一貫性がありません」。こういう「構造改革論者」は本当に多く、ネットの中でもかなりいる 笑。またすでに民主党関連エントリーでも書いたが民主党の公約する政策などは露骨にこのイデオロギーでありちゃぶ台返しものであることは以前指摘した。この種の論法をとる人たちは、高橋洋一風にいうならば、日本銀行財務省やそのほかの省庁の御用学者ぽい人が多い。規制緩和という総論には賛成するが、各個別の省益(中銀益も入る?)には産業政策の効果などを強調し、事実上の(改革の)個別反対を唱えるのである。その個別抵抗戦略も面倒になってくると、中央突破で消費税をあげることで、また無駄の温存を図るのがいままでの財務省中心の官僚機構のやり口であったといえるかもしれない。まあ、そういう人にくられべば確かに野口(悠)氏は根性据わっているのかもしれないけれどねえ〜〜。

5 アメリカ大崩壊論の胡散臭さ大批判大会w ドルが基軸通貨? 基軸通貨ってそもそもなに? そんなこと考える人はろくに物事考えてないよ。例えばドルと米国債が同時暴落、前後暴落、ともかく暴落など、ネットでもリアルでもわかりもしないでいう連中大杉栄米国債やドルが暴落する。でもドル安になると米国の製造業が有利になって大助かり。国債暴落のイメージ=借金返済のためドルをすりまくり=ドル安どんどんすすむ=アメリカ軽罪の大バーゲンセール=バーゲンセールの売れ行きがいいデパート(米国)が困っているのをあなたはみたことがあるか? 米国は内外需好転して財政調整がすすむ。「ドル終わり論」は単純なアメリカ崩壊論であり単直線的な思考回路。


6 上と関連するけれども、「同じことをいっていればいつか当たる」w。世界大不況もラビ・バトラのように(記憶では80年代頭から)ずっといってれば30年もすれば当たるかもしれない。それを理由にまともな政策を否定したり、市場経済を否定するのは愚か者……そこまでいってないか 笑。バーナンキクルーグマン、クー理論へのコメントなど。

7 飯田さんのコメントに典型的だが、このブログでの再三注意を促している、日本の再分配政策の非効率性への指摘。つまり貧しいか生活負担の重い若年層や現役世代からお金をとって、裕福な老人世代にお金をまわしている、という日本の制度の欠陥。それを助長する現在の地方重視の票配分や選挙制度の欠陥。またそれを促す麻生政権や民主党の再分配政策への批判など


(コメ)まあ、このままいくと、マクロ経済政策も中途半端、構造改革は棚上げで官僚の無駄を温存する増税のみ決定、老人層や地方の富裕層の利害だけ優先する再分配政策の欠陥のさらなる悪化、代替的な政党の経済政策の一部議員への丸投げが生みだす亡国物の損失など、この座談会を読むとお先真っ暗。強制的にでも若い世代の利害を反映するなんらかの選挙制度の改革案も必要になるのか? しかしそもそも選挙のシステムほど民主制などを意識すると効率性から程遠いものもないところが悩ましい。ましてやいま日本の国政選挙の論点に無理やりなってしまいかねないw世襲制への世論の反応とかみるとまじに問題多そうだね。

Voice (ボイス) 2009年 06月号 [雑誌]

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