稲葉さんのところを見て気がついたのだが、いろんなところでまたもやバーナンキ背理法が話題になっている。これを批判する人たちはその基本的な経済思想が清算主義的循環であるだけなので何の新奇さも話題には感じない。彼らの発言を一々モデル化する必要すら認め難い。それでも彼ら日本型清算主義のキモを簡単なモデルの下で理解したいむきは、デ・ロングの論文http://www.j-bradford-delong.net/pdf_files/Liquidation_Cycles.pdfを参照されたい。このブログのエントリーhttp://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20080601#p1でもここでふれたものだ。
さてこのエントリーでは、「バーナンキの背理法」がバーナンキ自身がいっていないというネット上で見かけた誤りを正すためだけに書くことにした。
以下は清水啓典氏の訳になるバーナンキ論文「自ら機能麻痺に陥った日本の金融政策」からの引用である。
「金融当局は名目利子率がゼロの場合にも総需要と価格を上昇させることができるという議論は、概して次のようなものである。貨幣は他の政府債務と異なり、利子は支払わず、満期日もこない。金融当局は好きなだけ貨幣を発行できる。したがって、もし価格水準が本当に貨幣の発行量に依存しないのならば、金融当局は自らの発行した貨幣を使って無限の財や資産を獲得できることになる。これは均衡においては明らかに不可能である。それゆえ、貨幣の発行はたとえ名目利子率がゼロ以下にはなりえないとしても、結局は価格水準を上昇させる。この議論は初歩的だが、以下でみるように、金融政策は無力だという主張の痛いところを鋭く突いている」(訳書167−8頁)。
バーナンキはさらに円安介入に関してもこのバーナンキの背理法を応用した議論を立てていて、それは日本の過去に行った円安介入のエピソードを理解する上できわめて参考になる(邦訳172頁)。翻訳をぜひ直接あたられたい。

- 作者: 三木谷良一,アダム・S.ポーゼン,Adam S. Posen,清水啓典
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2001/08/01
- メディア: 単行本
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はてなを含めてネットで盛んに「バーナンキ背理法」を議論しているのに、上記の本をとりあげたのははてな界では僕が最初ですか。う〜〜む。