欧州の左派的な政党も組合も、日本でいうところのリフレ政策(いまの日本銀行の異次元緩和的なもの、金融政策の景気対策への割り当てとその効果)を積極的に評価している。この金融政策への積極的評価を背景にして、反緊縮的な財政政策のスタンスやまた「生活賃金」的主張、最低賃金引き上げの主張も行われている。ここの理解が、おそらく日本のマスコミや政策当局者、政治家、運動家、市民には欠如しているか、むしろ誤って理解されていると思う。端的に日本共産党などは反リフレであるし、また多くのリベラル的な論者も反リフレであることが象徴している。
さてこのエントリーで紹介したが、簡単にいうとケインズ自身が、「将来的な貨幣供給の増加が、将来的な名目賃金(貨幣賃金)の増加をもたらす、そして将来的な名目賃金の増加が不況脱却につながる」と書いている。
「このような経済を安定化するためには、安定的な利子率と投資の限界効率のスケジュースが実現するように、貨幣の供給量を、貨幣賃金との関係でコントロールする必要が生じるということをケインズは指摘している。のちに、ケインズ主義と呼ばれるようになった通貨管理政策の考え方である。このときに雇用量はある適切な水準に安定的に保たれ、貨幣賃金と物価水準とはある程度大きく変動して、投資がある望ましい水準になるように調節される、とケインズは考えたのである」(宇沢弘文『ケインズ『一般理論」を読む』300-1頁)。
さらに置塩信雄らがこのケインズの主張を理論的に整理し、それを松尾匡さんが現代的な政策に適用している。
置塩ー松尾のケインズ主義は、要約すると「将来的な貨幣賃金の上昇が、設備投資の増加をもたらす。なぜなら将来の労働のコストが増加することが見込まれるので、それを節約するため現時点での設備投資を企業側は増やそうとするだろう。このとき必要条件としては、中央銀行が将来にわたって貨幣供給を増加することにコミットしていなければならない」というものである。
中央銀行(日本銀行)が将来的な名目所得全体の拡大に失敗してしまうと、名目賃金の継続的な増加は担保されなくなる、つまり「生活賃金」も最低賃金の継続的引き上げも困難になる。
そして経済学的にはまったく下策であり、さらには現実にも何度も失敗してきた(事実上の緊縮の中での)社会保障の拡充などという幻想に突き進むことになる。日本の左派とリベラル(だけでなくもちろん右派や保守の大半も)この理解にまったく乏しい。繰り返すが、この認識がないかぎり、現実にも何度も何度もこれから失敗するだろう。
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