福岡正夫『ゼミナール経済学入門』を18年ぶりに買うの巻

 というわけで2000年第3版を購入。前回購入したのが90年の第2版のときで記憶が間違えてなければこの第2版を使って大学院の修士課程を受験したと思う。このテキストのいいところは、経済学史(経済思想史)や経済発展論や一部労働経済学系など応用分野の人たちに便利な仕様になっていること。これは歴史系・応用系では、政策や当事者たちに過去の経済学の遺産がこびりついていることが多いためその理解が必備だから(同様の問題意識にたつものとしてDavid Laidlerのこの論文The Role of the History of Economic Thought in Modern Macroeconomicsを例示しておきます)。少なくともこういった問題意識に立てばこの福岡先生のテキストよりも優れたものは今の日本には見当たらない。もちろんゲーム理論など最新のツールが不十分なのだがそれは他の本で補えばいいだけ。まあ、これを購入したのは学生指導用でもあるんだけれども、いま部分的に再読してみて面白さを再確認。


 例えばマニアックなのだが 笑 「混合資本主義体制」の章は市場の欠落性、政府の失敗などを織り込んでこの種のテーマを教科書レベルではかなり丁寧にフォロー。第7章「需要・供給の法則」は一般均衡研究で有名な著者のおはこなだけにマニアックな視点(超過需要関数の性質、均衡点の存在証明など)全開で気軽に同種のテーマを読めないので重宝。第10章「資本および不確実性」は、最近リバイバル著しいハイエク、ナイトらの理論をおさえるこれまたマニアックなコネタ満載でやはり同種のテーマを教科書レベルでまとめて読めるのはこのテキスト以外なし。第17章の「景気循環論」「経済成長」も古典的ネタからカオス、内生的成長理論、最近よくみかける反成長論や終末論批判などトンデモ経済論批判まで備えたすぐれものの章。第20章「経済発展」は経済発展論を学ぶ人には重宝間違いなしの古典的(でもいまだに現役な開発イデオロギー)話題の総まとめとして使える。最後は、マルクスシュンペーターケインズの経済思想をそれぞれ批判的に検討していて、特にいまだに人気の高いシュンペーターの資本主義没落論やイノヴェーション理解についての問題点の指摘はやはり本書ならではの特色で安易なシュンペーターの援用を批判的にみる視座を提供している。


ゼミナール経済学入門

ゼミナール経済学入門