安場保吉の遺作


安場保和伝1835‐99―豪傑・無私の政治家

安場保和伝1835‐99―豪傑・無私の政治家

 ちょっと前に読んでいたんですが、紹介するのを忘れてました。明治時代の名物知事として知られる人の伝記です。安場先生の遺作になりましたが、多くの研究者たちの力が結集して、各章ごとに著者が違うにもかかわらず統一した印象で読むことができます。明治初期の税制の実態、社会資本の構築の実態、そして明治初期の人脈などが非常に詳細に書かれています。夢野久作の『犬神博士』では正義=頭山満 vs 悪=安場 と描かれてますが(ちなみにその正義と悪の弁証法的統一!として日清・日露戦争は実行されるのです、夢野ワールドw)、本書におさめられた鶴見俊輔の記述によれば、頭山自身は佐賀県知事であった安場を非常に好意的に思っていたことがえがかれております。頭山もそして安場の親戚の鶴見俊輔(つまり安場先生とは遠戚になる)も評価しているのが、岩倉具視の米欧行きの使節団にも加わったのにもかかわらず、途中で英語が通じないのに愕然とし、英語ができないのにアメリカにいくのは税金の無駄(ただし本書の鶴見章以外の記述では全権大使団内部の意見の相違もこの帰国に反映している模様)とばかりに帰国したことを大きく評価している。まあ、ちょっと別な意味でもったいないわな。


 ところで安場保吉先生の残した『東南アジアの経済発展』→これは「東アジアの奇跡」パラダイム=産業政策の成功 を批判し、競争市場の進展が経済発展をもたらしている、という視点にたつ、ほかのアジア経済発展論の大半が産業政策中心史観を採用する中では孤高ともいえる位置の著作、さらに『経済成長論』などはもっと再評価されるべきだと思うんだけど。