チャールズ・ウィーラン『MONEY』(山形浩生・守岡桜訳:東洋館出版社)

 目配りのよさと多彩な具体例、そして現実をしっかり見据える視点から書かれた良質の貨幣論の入門書である。大学生ならば授業の副読本で読むには適切だろう。価格もこの本の分厚さにしては手ごろだ。ただしその分厚さがちょっとしたハードルになる人もいるだろう。ただしそんな分厚さも著者の豊富な話題と訳者たちの日本語がすんなり読めるので大した問題ではないだろう。

 特に日本の長期停滞やデフレに興味のある人は、ウィーランが、インフレはまずいこと、デフレはさらにまずいことを丁寧に解説した第1章「お金ってなに?」第二章「インフレとデフレ」第三章「物価の科学:技芸、政治。心理学」をまずは読むことをお勧めする。そこではジンバブエのいまは失脚したムガベ大統領時代のハイパーインフレと、日本のようなデフレという現象が、実はお金の働きからみればコインの両面であることがわかるだろう。ジンバブエの人たちにとっては迷惑な話だったろうが、ムガベ氏の起こしたハイパーインフレは、貨幣的現象の仕組みをわかりやすく解説できる恰好の題材を提供してくれたと思う。

 そしてインフレよりもデフレの持続の方が経済そのものをおかしくする効果をもつことも納得できるのではないか。その後に山形浩生さんの訳者あとがきをさらっと読んでから、第10章「日本」を読む。そのあとに第6章「為替レートと国際金融システム」を読むといいと思う。

 ほかのところは、なにか新聞やメディアなどで各国の話題があるたびにその該当経済圏の章を逐次参照していけばいいだろう。残りの章はその後でも困らない(第4章、第5章は最後でもいい)。

 もちろん通読がお勧めではあるが、時間が取れない人や関心がかぎられた人には上記のような読み方をお勧めした次第。同じ著者の『裸の経済学』はかなり昔に読んだが印象には残っていない。今回の『MONEY』がとてもいいので、山形さんの新訳であらためて読んでみようかなと思っている。

MONEY

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経済学をまる裸にする  本当はこんなに面白い

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