コメント欄に、根井雅弘氏と伊東光晴氏の文献目録みたいなのはないか、といういつもの匿名さんのフリーライドな書き込みがきていたので、少し自分のブログをググったら、意外と最近は根井氏の書いたものをブログには書いてなかったんだな、と思った。ゼミの輪読用には、なるべく自分とは違う意見の本を採用するのだけど、去年は根井氏の『経済学の歴史』(講談社学術文庫)を採用した。これはゼミの学生には独習ではかなり難しいレベルで、予想以上に本格的な通史だった。
さらに去年、ノーベル経済学賞の実況中継をするために読んだ、橘木俊詔氏との共著『来るべき経済学のために』(人文書院)を再読した。初読のときの批評はここにある(酷評である)。また番組報道後に、根井氏編著の『ノーベル経済学賞』(講談社メチエ)も読んだ。これは便利な本であった。
最近では二冊、『経済を読む』という根井氏の最近の時論をまとめたものと、経済学初心者に自分の経済学に関する基本的立場を開陳したものと読める『経済学の3つの基本』を読んだ。
前者は、ケネーなど歴史的に偉大な経済学者の簡単な業績評価、ピケティの『21世紀の資本』をめぐる話題、長期停滞論、そして橘木氏との共著でも主要なテーマだった経済学教育の「標準的アプローチ」をめぐるものである。「標準的アプローチ」の独り歩きは制度化には反対だが、他方でミクロ・マクロ・計量を学ぶ効用を説いているところが根井氏の立場であろう。
後者は、根井経済学観が示されていて、反成長、バブルへの過度の警戒、競争概念への保留(古典派的な「競争」概念への注目)などを説明している。東日本大震災をうけての平川克美氏の「日本の成長の終わり」のようなお説教に根井氏は魅せられているようだが、それは単に経済的な事実を検討することをやめて、史上まれにみる天災と人災の前に思考停止をしているようにしか思えなかった。反成長というよりも、反経済的思考(反経済学的思考ではない)であり、それはむしろ災害の規模を拡大することに貢献してしまうイデオロギーではないだろうか? 東日本大震災では成長が終わったのでも、それを追求する思考が批判されたのでもない。災害からの復興にいかに経済的見方が重要なのか、それが明らかになったと思う。その経済的観方の中で、経済学の思考もそれなりの位置を与えられるだろう。
根井氏とはいろいろな点で見解が違うな、と改めて実感した読書経験である。
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