橘木俊詔&根井雅弘『来るべき経済学のために』

 優しい語り口の対話だが、その内容は精神の貧困といっていい価値観によって形成されている。まず両者の同意している事項は、脱成長論であり、また「参照基準」問題を契機とした大学の教育のランクに応じた区別である。脱成長の文脈で、成長しない世界で「精神的な進歩」を目指す社会に両者ともに賛意を示す。その一方で、レベルの低い大学や学生には一般教養の取得ではなく、実務的な教育をめざさせるという「タガ」をはめて考えている。明らかに一般教養をレベルの高いもの、実務教育をレベルの低いものと断定している。価値の階層を自分達で勝手に設定して、それを成長の余地のない世界で実行しよういうことは、その価値の階層を押し付けられた人たちがそこから逸脱できない(しがたい)ことをも意味するだろう。優しい語り口に隠れた精神の暴力。それしかこの対話には感じない。

 

来るべき経済学のために: 橘木俊詔 × 根井雅弘 対談

来るべき経済学のために: 橘木俊詔 × 根井雅弘 対談