山森亮&橘木俊詔『貧困を救うのは、社会保障改革か、ベーシック・インカムか』

 献本いただきました。ありがとうございます……といっても頂戴したのが、いまから二年と八か月前、お礼を書き忘れてすみませんでした。ちゃんと読んだ本の書評を書くことをとりあえず目標としているためにこんなに遅れてしまったと一応言い訳を(笑。

 さて本書は、いまも話題沸騰するベーシックインカム社会保障のさまざまな論点を話題にした優れた対談集です。僕はやはりベーシックインカムをめぐる論点が気になりました。

山森氏のよれば「無条件の生存権」という理念への理解がすすめば、それでベーシック・インカムの制度の持つ意味が公衆にわかってもらえるだろうといっています。僕は、この「無条件の生存権」という価値判断が、(その価値判断を承認あるいは却下するにせよ)議論するに値するだけの理屈をいまだもっていないのが難点としてあるのだと率直に思っています。ここは本当に難しい論点だと思うのです。

 また「無条件の生存権」という論点にからむのが次の橘木氏の指摘でしょう。

「橘木:なるほど、問題はかなりわかってきました。二つの問題があって、一つは無条件の生存権を認めるか認めないかという問いを国民にしhなければならないという、思想的な概念の問題。もう一つは非常に経済学者的な問題で、保障を100%捕捉できたときの効率性と、それを全て止めてベーシック・インカムを導入したときの効率性の比較という、非常に現実的な世界の比較。この二つの問題がある。私の見たところ、ベーシック・インカム論者は、どうも私の言う一つ目の概念的、思想的、哲学的なものに囚われ過ぎていて、私の言う二つ目の、では現実はどうすればいいのかという問題から逃げてきたような印象を受けるのですが、言い過ぎですか?」

 この旧来の社会保障、例えば生活保護の捕捉率を100%にしたときの効率性と、ベーシックインカムを導入したときの効率性の比較は、重要な問題だろう。例えば生活保護潜在的対象者を100%捕捉(いまは20%)しそれに支給を与えると年間10兆円ほど経費がかかる(失業手当は年額3兆円)。他方で1億3千万人に月額10万円支給するとすると年額156兆円かかる。実際には現在の生活保護があるために失われる経済価値(=機会費用)をもちゃんと考慮にいれる必要があるのでさらに議論は面倒である。

 ここらへんをきちんと考えるというのは重要だろう。僕個人はいろんなところで書いているが、ベーシック・インカムになぜか懐疑的である。ここらへんどうしてなのか、もう少し自分でもこのもやもやを解消したいと思っている。

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貧困を救うのは、社会保障改革か、ベーシック・インカムか

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