岩田規久男、浜田宏一、若田部昌澄、浅田統一郎他『日本経済の再生と新たな国際関係』(中央大学経済研究所編)

 中央大学経済研究所創立50周年を記念した公開講演会やシンポジウムの記録を書籍化したもの。大きなテーマにアベノミクスがあり、岩田先生、浜田先生、若田部さん、浅田さんの講演記録や論説が掲載されていて非常に有益な論集です。

 岩田先生は「「量的・質的金融緩和」の目的とその達成のメカニズム」を講演していて、特に予想インフレ率をがどうして引き上げ可能か、その経済への効果などを丁寧に解説しています。ただし講演が行われたのが2013年10月なのでそのときの経済状況が背景にあり、これを読むとアベノミクスが消費増税の影響がないときにはいかに順調に推移していったかがわかります。

 それと超過準備の増減と期待インフレ率の変化の方向の関係性についてのコメント(単純な貨幣数量説の否定とレジーム転換の意義)は重要です。いわゆる超過準備=ブタ積み論への反論ですね。

 浜田宏一先生の「アベノミクスとマクロ経済」は、金融政策が実体経済に効果があるとする経済学の歴史、アベノミクスの由来、そしてレジーム転換的なリフレ派への異論もあり興味深いです(僕はレジーム転換派ですが)。インフレ目標を支持しつつも、人々の期待形成は合理的期待形成通りではなく、ノイズがある、というのが浜田先生の考えですね。これは浜田先生の師のトービンも指摘していて、僕が読んだ範囲でも浜田先生と藪下史郎先生共訳のトービン『マクロ経済学の再検討』に指摘されてもいます。ここらへんのリフレ派の中の見解の微妙な差異は昔から興味深い論点ではあります。ちなみにノイズ的なものを考慮してたとえば適応期待仮説的なものでとりあえずインフレ目標政策について考えてもレジーム転換的な効果は検証できます(浅田さんの論文など参照)。

 若田部さんの論説「アベノミクス批判の経済思想史」は、戦前の金解禁論争、戦後の成長論争、平成不況論争をつなげて理解することで、アベノミクス批判(それはリフレ的な金融政策批判と同じ)の思想的岩盤を明らかにするものです。特に下村治の再評価は論述が光ります。個人的には最近、この論説でも下村との論争で話題になっている都留重人の業績をもっと深く掘りたいなと思っています。

 浅田さんの論説「変動相場制下の2国マンデル・フレミングモデルにおける財政金融政策ー不完全資本移動の場合ー」は、先日のケインズ学会でも報告のあった興味深い論説です。個人的には一定の行動方程式を導入して解を求めていくという手法は好きです(笑。上記の浜田先生の論説にも現状の動学的確率的一般均衡論への批判がありますが、僕もその点は共有してしまいます。MFモデルをより現実的な文脈にあわせるときの経済政策の効果を有意義に導き出している労作です。何度も書きますが、個人的には大好きな手法です。