岩田規久男前日本銀行副総裁の真意を日本経済新聞の記事はより正確に伝えた方がいい

 

日本経済新聞岩田規久男日本銀行副総裁の記事が話題だ。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO28642670X20C18A3EE8000/

 

日本経済新聞のネットの見出しでは、「緩和推進「単純すぎた」 岩田・前日銀副総裁 物価2%目標実現できず」とあり、見出しだけの印象だと岩田先生がリフレ政策について反省をしているような印象さえもたらす。

 

実際に見出ししか読まない、いわゆる「ヘッドライン寄生」(by古谷経衡)の読者にはそういう反応もある。だが、記事を読めばそのようなリフレ政策が効果がなく、リフレ政策の失敗を反省する内容ではない。むしろリフレ政策の改善の余地について説明しているものだ。

 

 またこの日本経済新聞のインタビューは題名だけでなく内容も読んでみると、岩田先生の従来からの主張と重要な点が抜けている印象をうける。

 

 YCC(イールドカーブコントロール)は従来のリフレ政策を補強はするが、そもそも予想(期待)インフレ率を上昇させるには、日本銀行の強いコミットメントが必要だ。これは退任前の岩田先生の最後の講演でも明らかなところである。該当部分だけを抜き書きする(講演の詳細は以下参照

http://tanakahidetomi.hatenablog.com/entry/20180131/p1)。

 

「日本も、コミットメントを強く して、2%まで物価を上げるという経験をしないと、なかなか予想物価上昇率 は安定しません。従って、予想物価上昇率が安定するまでは、今の金融政策の枠組みにコミットすることが大事です。安易に早く出口に出たいなどと言って はいけませんし、2%の目標にまだ遠いにもかかわらず、正常化を急ぎたいと か、非伝統的は嫌だとか、そうした態度は予想物価上昇率が上がらない 1 番の原因になります。」

 

 我々リフレ派の共通点にはこの予想インフレ率のコントロールが重要視されている。例えば政策ルールの一連の組み合わせを変えること、これはこのインタビューでも言及されているが、政府との共同宣言などは人々の予想を転換する可能性が大きい。つまりより専門的な用語でいえば「レジーム」の転換である。この用語をインタビュー記事はちゃんと入れて読者に説明すべきではないだろうか。

 

YCCはその意味でこのコントロールを大きく変える枠組みではない。もちろんレジーム転換にもなりえない。あくまでも補強程度だといっていい。家の建て替えではなく、トイレやふろ場のリフォーム程度だ。それでもやらないよりはいい。ところが日経のインタビューでは題名を好意的に読んでもまるでYCCが話題の中心としてみなされてしまう。例えばYCCが「最善だ」という発言があるが、あくまで補強の仕方で最善なのであり、デフレからの完全脱却としてはあくまでも予想インフレ率のコンロトールに結びつくレジーム転換(共同声明の再構築など)が重要なのだ。YCCは脇役でしかない。

むしろ政府と日本銀行は旧来の「共同声明を再構築し、レジーム転換をはかるべきだ」、という方が岩田先生の趣旨をより鮮明に反映できるだろう。

 

 もちろんこの共同声明の再構築は、このインタビューでも後半にふれられているし、最後の講演ではより力強く示唆していたが、岩田先生が明言していることは、日本銀行の19年のインフレ目標達成のためには財政政策との協調が必要だ、ということだ。いまのままだと14年の消費増税によるリフレレジームは毀損したままであり、さらにこれに19年の消費増税は追い打ちをかけかねない。インタビューにある教育国債の発行とその日本銀行の金融緩和による国債買いオペの連動という財政と金融の協調を含んだような、政府と日本銀行の共同声明が必要であろう。

 

 岩田先生の意見だけではなく、ぼくも賛同したい。より具体的には19年の消費増税の放棄も一刻も早くするべきだ。ポスト安倍はほとんど消費増税派ばかり、そして安倍政権もいまは増税を放棄していない(過去の二回の延期実績は忘れるべきではないが)。」

 

 岩田先生のインタビュー記事は、その意味でもまだまだ記者のまとめが不足しているな、と思った。