岡田靖「経済の基礎」in『現代用語の基礎知識』最新版

 編集の方から御本頂戴しました。ありがとうございます。元の職場の本ですが、この『基礎知識』を手にするのは実に20年ぶりぐらいでしょうか? 

 さてこの本の今回の目玉は、ずばり、ネットやメディアなどで語られている経済問題を理解する基礎知識を濃縮した、岡田さんの書いたたった5頁の「経済の基礎」です。それ以外の経済のところは(じっくり読んでないのですが)とばしても差し支えないでしょう。ぜひこの項目だけでも読まれることをすすめます。

 扱っている項目を列挙してみると、市場経済、資源配分/所得分配、価格メカニズム(競争メカニズム)、市場の失敗、完全競争、競争政策/独禁政策、産業組織論、戦略的貿易政策、GDP、経済成長/景気循環景気動向指数、完全失業率、自発的失業/非自発的失業GDPギャップ、テイラー・ルール、乗数効果、貨幣数量説、流動性の罠デフレーション、実質実効為替レートである。

 この項目だけみてもおいしいとこどりであることは明白だ。特にテイラールールから実質実効為替レートに至る部分は、今日の脱デフレ論争や日本経済の低迷を理解する上で必読の項目である。

 例えば「デフレーション」の項目には、こんな記述がある。

「実際にデフレーションの起こった日本では、短い期間を除くといかなる定義での貨幣量も増加した。少なくとも表面的には矛盾したこの事実が、1990年代から今日までに至るまでの日本のデフレ論争に決着がつかないひとつの理由である」。

 この用語集をひとまず脇において、この用語に補注をつけるならば、要するにいまでも日本銀行は「きわめて緩和的」な態度でいると表現しているのが、この「いかなる定義での貨幣量の増加」という事態と関連して過去も現在も発言されていた(今後もされかねない)。

 しかしそれは日本が「流動性の罠」に陥っていることの証拠である。それからの脱出には、クルーグマンのような新ケインズ派でも、ケインズそのもののオールドケインズでも、ともに将来にわたる貨幣供給量の膨張への日本銀行のコミット(=期待の転換)、そして名目所得の将来にむけての増加などが組み合わさることが処方箋で示されてきた。

 いいかえると日本銀行が現状を「きわめて緩和的」という態度を崩さず、他方でゼロ金利デフレーションが続くのであるならば、その事態を解消するのは期待の転換を中央銀行がまず行うことである。

 ちょっと脱線したが、本書のこの項目だけでもいいからぜひ保存されたい。

現代用語の基礎知識2010

現代用語の基礎知識2010