常見陽平『エヴァンゲリオン化する社会』

 2015年なエヴァイヤーだ。僕らも年初にそれを祝してトークイベントを企画したりした。だが意外とエヴァンゲリオンネタが盛り上がっている気配はない。少なくともファンの関心を出て社会一般にあらためてエヴァの現代的意義を問うような著作は今年でていない。と思っていたらまさかの常見さんがエヴァと21世紀の若者の雇用状況を重ねあわせる本を書いた。

 少し前にガンダムのジムになぞらえたサラリーマン本を常見さんは書いたが、ガンダム雇用本を「集団」に注目したものだとすれば、今度のエヴァ雇用本はかぎりなく「個人」いや「弧人」に注目して、若い人たちの雇用状況のしんどさに注目するものになっている。なんといっても碇シンジには世界の命運がかかっていた。多くの人がテレビ版エヴァをみて、シンジはヘタレだと第一印象で思ったかもしれない。しかしどうだろうか。内向的だろうが外向的だろうが、いきなり知り合いが縁遠い父親しかいず、その父親とその部下とおぼしき会ってまもない人たちに得たいのしれない大型生物と、やはり得たいの知れない何か(=エヴァ)にのっていきなり戦え、っていわれたら? それでもシンジはやり通したではないか。素晴らしい。いや、違う、そういう無理な環境で戦えというのもやはり十分にいかれてるし、それで「素晴らしい」と思うのもおかしい。むしろヘタレでいいじゃないか、いやとりあえず世界を忘れて逃げ出せ、とまではさすがに本書は言っていないが、だがそのメッセージに近いものは受け取れる。

 孤独であることは若い人の特権だが、それを悪用した「ブラック企業」などの雇用の罠をどうきりぬけていくか、その問いを本書は提起している。