常見陽平『「就活」と日本社会』

 常見さんの修士論文をもとにした本格的な社会学的アプローチからの就活論。日本の就活市場が、新卒一括採用でありながら、大手と中小企業の間にはさまざまな差異(階層性)がみられること、さらに「自由競争」的なイメージ(=競争移動規範)を装った庇護移動規範がみられるという。

 ここでの庇護移動規範とは、「既存エリートの評価によって志願者の地位獲得の可否が決まるモデル」である。インサイダーの論理である。それに対して「競争移動規範」とは、「公正・平等な規則の下で戦術を駆使した競争によって志願者が地位を獲得するモデル」である。後者を偽装して実際にはインサイダーたちの交渉力が上回るのが日本の就活市場である、というのが常見さんの指摘である。

 この「偽装」には、採用側の企業と就活している学生との意識の差異、つまりは情報の非対称性に似た状況が貢献しているようだ。他方で、インターンシップがこの「偽装」をさらに加速化していき、事実上は庇護移動規範が強化されていく事態が現出しつつある。学生の側は競争移動規範が就活市場で支配しているという「平等幻想」を捨てて、生存戦略を構築すべきだ、というのが常見さんの本書の大枠のメッセージだろう。

 常見さんはこれから実際の大学生たちと教育の場で接していき、多様な就活現場で実体験を豊富に重ねていくだろう。常見さんと接する学生たちは幸せだ。また学生たちからのフィードバックがどう常見さんのこれからの就職論に反映されるのか、それも楽しみにしたい(というか僕は参考にしたい。

「就活」と日本社会 平等幻想を超えて (NHKブックス)

「就活」と日本社会 平等幻想を超えて (NHKブックス)