ガイ・スタンディング『ベーシックインカムへの道』(池村千秋訳、プレジデント社)

世界にベーシックインカムを広める実践的な活動をしているBIEN(ベーシックインカム地球ネットワーク)の共同創設者&共同名誉理事の経済学者、ガイ・スタンディングのベーシックインカムの基本的な啓蒙書。巻末にはベーシックインカムを試験的に導入するときのコツや手順がまとめてあるので地方自治体レベルでの導入実験などに活用できる国内では珍しい本でもある。

 

すでにこの本は数日前のschooでの講義に利用し、また推薦してもいるのでぜひそちらの動画も見てほしいのだが、僕はとても刺激をうけた。

 

まずBIが福祉ではなく所得を提供するための制度であることを明示しているのがとてもいい点。BIは政府の効率化にも使えてしまうので、それで福祉を削るということにも結びついてしまいがちだが、そのような発想と本書は厳しく対立し、一線を画している。もっとも実践レベルで、福祉と効率性のトレードオフが利用者の幸福を悪化させない程度であればスタンディングも制度のスリム化もすすめている。ここらへんは融通がきく人だな、という印象。

 

またBIの理念のひとつに、他者から支配されない自由があるという主張も個人的には重要。既存の社会保障制度、最低賃金などとの比較も一覧表になっていて参照になる。もちろん個々の論点では賛否あるが、原田泰さんの『ベーシックインカム』や飯田泰之雨宮処凛氏らの『脱貧困の経済学』と相互補完&日本の実情への応用もできやすい。

 

特にBIが雇用の交渉力を高めるというのは、雇用の流動化が制約されている日本の環境では、特にBI導入は雇用の環境改善に役立つかもしれない。裁量労働制よりははるかに機能しそうだ。精神的な安定などのいままで注意のいかなかった論点へのフォローも充実している。

 

それとschooの講義でもふれたが、BIは雇用重視の経済観を拡張して「仕事」重視の経済への転換を見据えることができるのも本書の強調点としてユニーク。低賃金の職、ボランティア、介護などの無給の仕事の再評価につながる。ここらへんは数値を勘案してschooでもふれた。

 

あとBIの資金調達としての政府系ファンドの活用についてはGPIF的な発想があり、そこは個人的にはあまり賛同できなかった。

 

またこれまた本書をもとにSchooでも強調したが、実際に日本に導入するときは、限定版BIとして40代前後の人たちに年齢で実施する案をだした。この世代が特に就職氷河期に直面していて、生涯年収が極端に低くなり、その反動で将来引退したときの年金などが十分に得られない可能性もあるからだ。その状況を改善するために年齢でのBIを提言した。

 

また本書の主張を利用してSchooでは原田泰案を社会保障制度を既存のものを大部分残す範囲で試算するということもしてみた。

 

いずれにせよ、本書の読書は実に楽しかった。おすすめの一冊である。

 

 

ベーシックインカムへの道 ―正義・自由・安全の社会インフラを実現させるには

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