週刊『エコノミスト』(10月18日号)連載「温経知世:経済学者の思想と理論」グンナー・ミュルダール

 『エコノミスト』で始まった経済学者の思想史的紹介コーナー。二回に分けてアダム・スミスをやったあとに、今度は時代は一気に下り、20世紀の代表的な経済学者のひとりグンナー・ミュルダールです。執筆者はミュルダール研究の第一人者といっていい藤田菜々子さん。

 ミュルダールの特に戦後の貢献は、およそ3点に凝縮されると思います。

1 価値判断の明示化という方法論
2 循環的ならびに累積的因果関係の原理
3 福祉国家から福祉世界へ

です。1についてはすでにこのエントリーでふれたので省略します。

2について藤田さんの簡潔なまとめを以下に。

「この時期の代表的議論が「循環的ならびに累積的因果関係の原理」である。市場諸力は、貿易・移民・資本移動などを通じて、開発地域には有利に、低開発地域には不利に働く一般的趨勢があるとされた。彼は、先進諸国では福祉国家のうえに平等と高成長の好循環が成り立っているが、低開発諸国では腐敗や汚職が横行する「軟性国家」のうえに不平等と貧困の悪循環が生じているのであって、世界レベルでは市場諸力を通じた格差拡大がみられるとした」。

この上で、3の福祉世界論をミュルダールは要求するわけです。

福祉国家は現状の自己満足にとどまってはならず、福祉社会と福祉世界の両方向へと越えられなければならない。グローバル化福祉国家の再編が論じられる現在、その考えはかなり「現代的」である」。

 この福祉世界論がどのような射程をもつのか、正直、僕にはまだ不透明なところがあります。自分でも少しこの話題については考えてみたいと思っています。

 ミュルダールについては以下の著作を参考ください。

グンナー・ミュルダール ある知識人の生涯 (経済学の偉大な思想家たち)

グンナー・ミュルダール ある知識人の生涯 (経済学の偉大な思想家たち)

 藤田さんのミュルダール論は以下に

ミュルダールの経済学―福祉国家から福祉世界へ

ミュルダールの経済学―福祉国家から福祉世界へ

 ミュルダール自身の著作で興味深いのは以下のものが代表