政府ってダメなの、イイのどっちなの?

二年半まえに『電気と工事』に寄稿したものの草稿を以下に。

 僕たちは日常的によく政治家や官僚たちの悪口や批判を口にする。でもその一方で、何か民間で不祥事が起きると、国にどうにかしてほしい、と注文もする。そんなに悪口や批判をふだんからいっている人たちに、なんで非常事態(?)のときに期待するのか、ちょっと考えをめぐらすとおかしな気もするけど、それが僕たちの日常的な行動パターンみたいだ。まるでふだん成績の悪い学生に、いきなり100点満点を期待するような態度。

 問題はこうなのかもしれない。政府ってどれだけダメで、どれだけなら期待していいわけ? と。
 こんなときに思い出すのが、『機動戦士ガンダム』だ。『機動戦士ガンダム』といえば、日本のサブカルチャーを代表するアイコンのひとつ。初めて放送開始されてからすでに30年以上が経つ現在でも、「ガンダム」の名前の入った新作アニメや様々な関連商品が市場に提供されている。世代を超えて愛されている一大商品。

 ところで余談だけど、ガンダムの商標利用はかなり厳しくて、この連載には毎回、すばらしいイラストがつくんだけど、ガンダムとか描けるのかしら(笑)。
 ところで僕がガンダムの世界を考えるといつも「ジオン公国といい、地球連邦といい、なんであんなにダメなんだろうか」ということだ。そもそもなんでこのふたつの政治的背力は戦争してんでしょう?

ギレンというジオン公国(誰がどうでみてもナチスドイツのイメージに乗っかってる)のリーダーの演説聞いてもその理由はさっぱりわからない。ただ僕の経験知で申し訳ないけど、政治家の発言が意味不明瞭なときは、だいたいその政治家か政治自体に問題があるのが大半だ。で、僕もなぜジオンが地球連邦に対して戦争をしかけたか、といえば、ジオンとう政府が失敗したせいじゃないか、とにらんでる。
 ガンダムシリーズの監督として有名な富野由悠季が書いたスピンオフ小説に、『閃光のハサウェイ』というものがある。これを読むと、なんでギレンが戦争をしかけたかがわかる。

 いま世界は(二年半前の記事をお忘れなく)から始まったソブリン危機というもので戦々恐々だ。ソブリン危機というのは、簡単にいうと、外国から借金をかりた国がおカネを返すことができなくなり、それを事実上踏み倒す。そうするとその国におカネを貸していた国々や金融機関もやりくりが苦しくなって連鎖的に危機が発生してしまうことをいっている。問題はギリシャ(だけじゃないけど)が、外国から膨大な借金をしてそれが返済不可能なことにある。
 『閃光のハサウェイ』を読むと、ジオン公国もまさにギリシャと同じ問題を抱えていることがわかる。ジオンも宇宙に浮かぶ植民地のひとつで、最初から膨大な投資をしてつくらなければいけない。で、その投資は主に借金でつくられる。借金をする方はジオンに住んでいる人たち、おカネを貸すほうは地球にいる人たち。

 ジオンに住んでる人たちは、この外国(地球)への膨大な借金返済でひーこらしているわけだ。借金の返済が優先されてしまうので、満足な貯金もできない。貯金ができないと、最寄の金融機関にいっておカネを借りてなにか事業をしたくてもできない。もしおカネを借りたければまた外国から借りなくてはいけない。つまり民間の経済は委縮してしまい。そうなると経済が小さくなることは、ジオンの地方政府に入るおカネ(税金)も少なくなる。満足な公的サービスもできなくなり、それをなんとかカバーしようとして地方政府は構造改革(政府の職員の給料減らしたり、サービスをカットする)をしたり、また増税しようとするだろう。そしてそれが人々の暮らしをさらに悪化させる……悪循環だ。
 この悪循環を断つために地方政府がとることができるのは、多くわけるとふたつ。1)借金の事実上の棒引き、2)戦争、というふたつの戦略だ。前者の方はいま、現実のギリシャだとかイタリアだとかいろんなユーロ圏の国々がやっているのでご存じな人も多いだろう。

 まず借金を返すのを延長してもらう。次に延長だけではなく、借金をカットしてもらう。カットしてもらうと貸したほうに損失が発生する。その損失は、貸した方の国民(ガンダムでいえば地球の人たち)が増税やら泣き寝入りやらで負担する。さらに物価があがると借金の実質額が減少するので、おカネを借りた政府が物価が急上昇するような政策をとる…などのオプションがある。

 でもいま書いたのは、ちょっとアニメにするにはビジュアル的に物足りない。第一、関連商品でフィギュアやプラモデルがつくれそうもない。で、アニメで好まれるのは、戦争の方だろう。
 実は現実をみると、外国からの借金帳消しで戦争した国というのはそんなに多くはない。圧倒的に前者の手段で対外借金の帳消しをするというのが昔から今に至るまでの常とう手段だ。だってうっかり戦争でもしたら、勝ち負け次第では、またまた借金、というはめにあいそうだもの。
 だから借金棒引きで、戦争を狙う国は相当のおバカさんではある。で、まさにジオン公国はそのおバカさんの典型的な戦略に出たわけだ。 

 ところで、シャアって、めっちゃ黄金が好き。地球連邦との裏取引でも金塊で決済しているくらい。いいかえると、シャアは政府の発行する紙幣を信用してないふしがある。
 いまのギリシャもそうだけど、なんでこんなに危機がずるずる深刻化しているかというと、ギリシャが加盟しているユーロ圏、つまりユーロという紙幣を大切にしているからにほかならない。ユーロはギリシャだけじゃなくて、ドイツやフランスなどユーロ圏全体の紙幣だ。なので、ギリシャがいくら信用できない国でも、ユーロが信用できない紙幣ではない。ふつう、借金返せない人の信用力はめっちゃ低い。だからユーロという自分以外の信用で持っている紙幣を手放すことはギリシャはぜったいにしない。そんなことをして、ユーロに入る前に自分の国だけで使ってた紙幣(ドラクマだったっけ?)に戻ると、誰もそんな紙幣を信用しないだろう。だからユーロに入ったままで借金返済を考えているわけ。

 じゃあ、ジオンは? シャアの行動をみるかぎり、ここでもジオンはかなり極端な政策にでたみたい。たぶん地球連邦と同じ紙幣をかなぐり捨てて、自前で紙幣発行。で、誰もそんな紙幣を信用しないから、たちまち猛烈なインフレが出現。で、シャアみたいにみんな政府の発行する紙幣を信用しないで、金塊だけ信じたぽい。
 う〜ん、ここまで書いてくと、ジオンに兵なしどころか、人材もいない感じになっちゃうね。