岡嶋裕史『ジオン軍の失敗』

 ガンダムについてはすでに日本の文化史の背骨の一部を形成してしまっていて、ガンダムを語ることは(サンライズのキャラクター戦略を遠目に観ながらも)ある種、硬直化した訓詁学の様相を示している。いろいろなギャグや二次的、三次的創作物も要するにガンダム訓詁学の範囲の中での話である。ガンダムを語るもの、研究するものはこの硬直化したガンダム訓詁学の中でいかに面白いネタを提供するかに己の才能を賭けているといえようか。僕自身はガンダム訓詁学よりも、やはりガンダムを通してプラスアルファのことを語っている著作を読むのが好きだ。そういう可能性をもった著作としては、永瀬唯宇宙世紀科学読本』、多根清史宇宙世紀の政治経済学』、鈴木ドイツ『ガンダム第二次世界大戦」、あるいは関連研究として稲葉振一郎『オタクの遺伝子』(この本自体は長谷川裕一論である)をあげることができるだろう。いずれの著作も読んでいるとガンダムを通して別な世界を解釈する手段を与えてくれる優れた著作である。

 そしてこれらの著作の中に岡嶋氏の『ジオン軍の失敗』も入れることができるだろう。本書はジオン軍モビルスーツの開発がいかに誕生し、そして官僚的なコーディネーションの失敗によって、いかに破たんしたかを丁寧に架空世界に基づきながら記述した面白い本である。本書におけるコーディネーションの失敗の一端は次の記述からもわかる。

リック・ドムゲルググと並行する形で、複数の機体開発プロジェクトが進められており、主計部の趨勢が他機体の採用に傾いて以降も、まるで技術者の怨念が残滓として漂っていたように、選定に漏れた機体の派生機が造り続けられ、これが公国軍の総保有機体数を減じた要因であると考えられるのである」60頁。

 日本における軍事技術開発の歴史をこのジオン軍の開発史に重ね見ることで、日本における産業政策の意義と限界を再考するのもいいだろう。正月休みの友として最適な一冊だった。

アフタヌーン新書 006 ジオン軍の失敗

アフタヌーン新書 006 ジオン軍の失敗