ヴァーツラフ・クラウス『「環境主義」は本当に正しいのか?』

 若田部昌澄さんの監修・解説つきだが、いままでなぜか読んだことがなかった。今日、たまたま入手したのでざっと読んでみるが、面白い。特に「環境主義」(地球温暖化に関わる小さなリスクを喧伝して予防原則を過度に推し進める人たちの立場)への言及は、地球温暖化だけではなく、TPP批判や公共事業中心主義、原発のリスクあるいは反対に過度な便益の主張などにも応用できる。本書はもちろんこれらの「環境主義」的な発想を批判している本だ。著者はこの翻訳がでた当時(2010年)では現職のチェコの大統領兼「古典的な自由主義」を信条とする経済学者でもある。

 本書&監修者解説で書かれているように、「環境主義」とは地球温暖化を予防することが「権利」として過度に主張されている立場と解することができる。どこが「過度」かといえば、政策評価の基礎となる費用便益分析をまったく無視する態度(あるいはいろいろな難癖をつけて事実上無効化する議論も含める)を一例としてあげることができる。

 このような「環境主義」的な態度は、先に書いたように環境問題だけに限ったものではない。また本書の議論の基礎は単純で平易な経済学の応用である。費用便益分析や時間的割引率を重視する政策評価。そして環境クズネック曲線(経済発展の初期段階では汚染物質の排出が増加し、経済発展の進行とともに減少していくこと)への好意的評価などである。

 もちろん著者の指摘についてのさまざまな議論や限界は、監修者の周到な解説に書かれているのでぜひ参考にしていただきたい。

「環境主義」は本当に正しいか?

「環境主義」は本当に正しいか?