白い日銀の逆襲ー雨宮正佳日銀理事がアベノミクスを終焉させるー

 最近の株価の乱高下、為替レートの円高方向へのぶれは、何によるものか? いまだ日本経済の実体面では改善がすすむ一方で、なぜこのように金融面での乱調が続くのだろうか? そしてそれは本当に「調整過程」で終るのだろうか? 私は現時点でアベノミクスのいままで最も効果を発揮してきた大胆な金融緩和(リフレ政策)に不安要因、いや矛盾する要因が全面にでてきたと考える。この矛盾する要因が、「調整過程」のブレを大きくし、さらには放置を続ければ、ほどなくアベノミクスは終焉するだろう。その結果は無残なものに終わりかねない。

 その原因は人的なものに尽きる。雨宮正佳日銀理事による「大胆な金融緩和」の事実上の妨害である。その妨害手段は、何度もここで話題として取り上げているが、国債利回りを現状のまま「安定化」させることによってなしとげられる。具体的にはいま実施している固定金利オペによって誘導されている。

 L.クリステンセンは、甘利経済産業相ら一部の閣僚も同様の「国債金利の安定」を口にしており、それに呼応する動きが日銀内部に急速に広がっているとして、以下のように指摘している。

 「言い換えると、一部の日銀委員は債券利回りの上昇を抑えたい、つまりは甘利大臣の懸念に対応する考えを持っているということだ。これを行うにはたった1つの方法しか存在しない。つまり、2年以内に2%のインフレを達成するというコミットメントを放棄することだ。インフレの上昇と債券利回りの不変というは明らかに同時には成立しない。黒田総裁が当初インフレ期待を押し上げるのに成功したからこそ、日本の債券利回りは上昇していた。そうした単純な話だ。」*1

 つまりアベノミクスの第一の矢の核であるインフレ目標2%(これは同時に安倍首相が目標とする、一人当たり150万円の所得増加=GNIの名目3%成長と同じ)を完全に否定する動きが、この「国債金利の安定化」政策なのである。

 この動きを日銀内部で主導しているのが、雨宮正佳日本銀行理事である。彼は先日も、民主党政権時に、デフレ脱却にきわめて消極的だった民主党議員(櫻井充元財務副大臣)の質問(国債金利安定をともかく促す趣旨の質問)に答えて、インフレ目標の達成と矛盾する国債利回り安定化に注力すると証言している。

6月13日 参議院厚生労働委員会 櫻井議員 vs 雨宮理事
http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php

この記録をみれば、雨宮理事は明白に、櫻井議員の緩和の手段の見直しを求める質問に対し、国債金利の乱高下を金融面のリスクとして認識して点検していくと発言している。もちろん上の述べたように、このリスクを是正するということは、単純にいえば、インフレ目標を妨害します、少なくともそれと矛盾する行動を行いますと、デフレ脱却に意欲が乏しい議員と政党にむけて「口約」しているようなものである。また同時に雨宮理事は、現行の円安と株価上昇面の成果を、単なるコストプッシュ型のインフレに結び付くものととられかねない発言も行っている。これも誤解を広めかねない。

ちなみに雨宮理事のこのような発言は、ロイターなどでも報じられ、英語でも訳され、それが市場では、日本銀行の政策が「矛盾」するものとしてうけとられ、市場の不安定化を誘発していることは、日銀の行動を長年みているものからは明らかである。

おそらく櫻井氏の経歴をみれば、その発言の裏側には、財務省の遺伝子(前任者よりも国債金利をあげるのはダメだ、という官僚の前例踏襲主義)が伏在している。彼がいまの日銀の政策では、まったくインフレ率を達成化できず、国債金利だけが「不安定化」する、と発言しているのはその証拠であろう。関心は国債金利しかない。

ちなみにインフレ目標の利点は、国債金利インフレ目標、さらには経済成長の安定と矛盾しない水準で、まさに安定化することを保証するものなのだ(財務省の一部や日銀にとっての都合のいい水準ではない)。もちろんこのインフレ目標達成の過程で、国債保有する銀行などは資産選択の変更を促される。その資産選択の変更を阻害する(つまり国債保有したままで現状維持=デフレ継続)効果も、先ほどの固定金利オペはもっていると思われる。それが昨今の国債と現金保有(デフレ継続ではこの保有形態は望ましい)の間で、銀行が資産選択をしていることの表れかもしれない。

財務省国債金利を前任者と同じ水準のままにしたいという思惑と、日本銀行のデフレ継続の遺伝子がまさにドッキングしている。

その代表的な人物が雨宮理事なのだろう。もちろん彼だけではなく、日銀の現在の金融政策への面従腹背グループは数多く存在するだろう。しかし、彼らがやっているのは、日本経済の再生を願う日本国民への面従腹背なのだ。

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http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20130319#p1

*1:「黒田総裁の信頼性崩壊」BY LARS CHRISTENSEN http://dlvr.it/3WDfKv