韓国経済メモ(雇用編)&「完全失業率」の意味をお間違いなく

 数日前のエントリーが思わぬ反響をよんだようなので経済学を知らない人むけに補足。これはTwitterでつぶやいたものをベースにしてます。

なぜか「完全失業率」を本当に「働きたい人がみんな働いてる水準」みたいに誤解していた人がネットで平気でつぶやいてることが多い。経済学の初歩を知らないとよくある誤解ともいえる。

完全失業率」というのは、当然、「インフレが加速化しない」という失業率。普通の経済学の定義。いまの韓国がそれに近い水準なのは、真の失業率がたとえ2%より高いものになっても変化はしない。

完全失業率」=「インフレが加速化しない失業率」は、また別名「自然失業率」とか「構造失業率」ともいう。これも常識でおさえておくべきところ。

 通常の景気の悪化で左右されるのは需要不足の失業率。例えば日本だといま4.5%ほどの失業率だが、このうちだいたい〜1.5%が需要不足によって生じている「部分」。残りはさまざまな要因(構造的要因)で生じている。なので構造的失業ともいう。

 僕の認識では、いまの韓国の公式の失業率2%台後半は歴史的にみても韓国の完全失業率(上の構造失業率)に近いと判断して書いた。

 で、さらに構造的要因がほかにも隠れてて、韓国の真の失業率が公式の2%台後半の倍とか三倍で仮にあったとしてもそのほとんどが構造的要因なので、総需要を刺激するような金融政策には関係ないと書いた。

 つまり韓国の公式の構造失業率が2%だったとして、実は真の構造失業は6%だったとしても、それは構造失業であれば金融政策はすでに失業を改善せず、単にインフレを起こすだけなのでその大小はほとんど意味をなさい。そのことを前回のエントリーで注記したが、どうも不注意の人はそこをよまずにタイトルだけか出だし数行で満足して批判してきた人も何人かいた。

また韓国の失業率や雇用状況についても別途考察する(ちなみに韓国の真の失業率が高くても上記の議論にはほとんど関係ない。なぜなら真の失業率が高い原因は構造的な要因だからだ)。

 ところで韓国の真の失業率がどんな原因で高いのだろうか? 確かチャンネル桜の討論番組かさくらじで言った記憶もあるが(コメントをみるとどうも冷静に聞かれてない気持ちが大きいけど 笑)、以下にちょっと参照論文もあげて軽く言及したい。

 金明甲氏のこのレポートはわりと問題を整理していて読みやすい。
http://www.nli-research.co.jp/report/report/2011/02/repo1202-t.html 

 韓国の失業率の低さは非労働力人口が大きいこと。原因:徴兵制、大学進学率の高さ、専業主婦の多さ、自営業者の割合の大きさ(=無給の家族従業者)。

いま書いたように真の失業率が進学率の多さ、徴兵制、自営業者の多さなどの問題で低くでているとしたら、これは総需要不足とは無縁。つまり景気対策がどうしたこうしたの問題ではない。専業主婦については日本と同じようにパート労働のウェイトが大きいが、これは求職意欲失業者として景気連動する。

ただしいまの2%の数字にこの求職意欲失業者をいれてもそう大きなブレはない。0.1〜0.2%の最大範囲。現行のインフレ率1.5%を考えるとインフレ加速的失業率の近傍であり、真の失業率が、さっき書いたけど(オーバーに)たとえ2%の数倍だとしてもそれは景気対策、つまり中央銀行の金融政策とは無縁だ。

最後になるが、韓国の雇用問題については、黄秀慶氏の一連の研究がいい。一部は日本語でも読めるので中上級者は参考に。

参考論文
黄秀慶「韓国の賃金構造」http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/oz/571/571-01.pdf
黄秀慶「韓国女性労働の供給及び雇用構造」http://www.jil.go.jp/institute/kokusai/documents/hwang.pdf
 後者は真の失業率問題や経済格差を考えるうえで必読論文。