先の片岡剛士さんと上念司さんとのトークイベントでもちょっと僕と片岡さんとの間で議論になった雇用をめぐる問題。正確には講演の記録を聴いていただきたいと思いますが、雇用と景気の関係だと思います。景気の指標として雇用がどの程度役立つか問題とでもいいかえることができるかですね。私見では、雇用は経済に関する最重要問題のひとつで、現状の景気変動、つまりはマクロ経済政策の在り方にも大きく関係していると思います。論点としては消費の低迷(政府や日銀は底堅いと解釈していますが)と経済予測の先行きへの不透明感があるにもかかわらず、なぜ雇用は堅調か、と言う問題です。片岡さんは労働供給サイドの影響を強調されていたと思います。いまの雇用の堅調を循環的要因だけで考えるのには無理があり、構造的要因(例えば定年退職者への補充確保の要因が大きいなど)の貢献もあるという立場だと思います(片岡さんにtwitterで指摘されたので修正)。
他方で僕は、循環的要因が大きく貢献していると考えています。そして構造的要因とみられているものも循環的要因に引っ張られていると思います。
内閣府の「日本経済2014-15−好循環実現に向けた挑戦−」は今年の一月のレポートです。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/2014/0113nk/nk14/index.html
その労働需給動向
http://www5.cao.go.jp/keizai3/2014/0113nk/nk14/n14_2_1.html#n14_2_1_2
就業者数の増減要因の分析
http://www5.cao.go.jp/keizai3/2014/0113nk/nk14/img/n14_2_1_02z.html
これらをざっくりいうと2012年後半から雇用情勢は改善している。「完全失業率」の低下、求職意欲喪失者の減少、長期失業率も低下(高止まりの指摘もある)、非正規雇用(不本意型)の低下がみられる。
で、「就業者数の増減要因の分析」のグラフをみる、まず男性の方は65歳以上の就業者数の増加が大きい。この要因は人口要因と労働力要因。で、労働力要因の主因は、「その他の要因」が大きくかかわっている。これは簡単にいうと高齢者でも継続して働いてもらう趨勢が貢献しているということ。ただしこの「その他要因」は明らかに景気変動と順相関している。
参考
http://www5.cao.go.jp/keizai3/2014/0113nk/nk14/img/n14_5_a_2_01z.html
またそもそも65歳以上の男性の就業者数増加に対する人口要因も景気と密接に変動しているのは第2−1−1図からもかなり明瞭である。つまり64歳よりも働きたいと思っているひとがそのまま働いていられるかどうかも景気次第であった蓋然性が大きい。
次に女性の方をみてみると女性就業者数の増加は、15〜64歳については、人口要因を上回る労働力率要因と失業率要因の寄与が大きい。で、労働力要因については、求職意欲者要因(男性と違い女性はそもそも好不況と求職意欲者の増減は無縁)よりも「その他の要因」の貢献が大きい。この「その他の要因」では、内閣府の説明では、「たえば、すう勢的な社会進出の拡大や、家計補助を目的とした労働参加等が考えられる。」ということである。だが、この「その他の要因」も男性と同じく女性の方も2012年以降の景気拡大局面で急増している。他方で景気下降局面では減少。家計補助をしやすい環境が景気の好転で可能になったと考えるのはそれほどおかしいことではない。
女性の65歳以上の就業者数増加に貢献している労働力率、人口要因ともに男性の方ほどははっきりしてはいないが、やはり景気についてともに順相関していると考えることができる可能性はある。
循環的要因と構造的要因は、「履歴効果」や「人的資本の劣化」などのように互いに強く結びついていて、特に日本の場合は、景気が好転すると、構造的要因と思われていたものが循環的な動きをするようにも思えます(この論点については古くは野口旭・田中秀臣『構造改革論の誤解』2001年参照)。
なので雇用の現状は相変わらず景気のいい指標でありつづけるでしょう。ただし高齢者の継続雇用(人口要因)と新規の高齢者の雇用、女性についても同様に所得を押し下げられての雇用継続や新規採用であれば、それは非正規雇用での雇用コスト抑制と同じような手段として利用される可能性があることも無視できないでしょう。そのためにも雇用環境の改善が、マクロ経済政策のより積極的な運用、働く環境の整備など「構造的」改革もよりすすめていくことが肝要でしょう。