若田部昌澄『「日銀デフレ」大不況』

 石橋湛山賞受賞とタイミングを一にして、若田部さんの新刊が登場です。

 非常にわかりやすい語り口で、日本銀行の現状の政策スタンスが、日本経済を脆弱なものにしていること、これを解決するには、日本銀行法を改正してインフレ目標の導入を図るなど、日本銀行の政策スタンスの転換(不況レジームからの転換)が必要である、と説いています。

 また最近のマスコミの報道の仕方への疑問や、IMF増税「提言」(提言ではないことは本書で明瞭に説明されている)の検証など、メディアリテラシーの本としてもすぐれた分析を提示しています。

 特に本書で力が入っているのは、「なぜ日本銀行は過度にインフレを嫌うのか(=なぜ日本銀行はデフレ志向ぎみになるのか)」という問いに、70年代の石油ショック前後の経験などを深く分析し、このインフレ嫌いの「DNA」のルーツをわかりやすく分析することで解答を提出していることでしょう。またギリシャ危機の正確な解釈、日本銀行経済産業省などがすすめる産業政策の限界、さらに「増税で景気回復する」という現行政権の経済政策思想も、著者の明晰な分析の対象になっています。アカデミックな語り口の中にも、著者の実践的な関心とまた現実経済への処方箋の提供など、かなり立ち入った政策へのコミットを著者はこの本を通じて提言しています。いわゆる「日本銀行問題」がすでに政治問題化しているとはいえ、本書のように経済学独自の視点からも繰り返し、日本銀行の不況レジームの背景、その経済思想の病理を指摘し続けることは重要であることをやめないでしょう。

「日銀デフレ」大不況 失格エリートたちが支配する日本の悲劇

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