韓国経済のメモ(成長、貿易、所得格差関連)

 昨日の阿佐ヶ谷トークイベント用のメモの一部

 昨日のトークイベントでも冒頭で話題になったが、、愛国系の議論では、韓国の経済が明日にでも崩壊する(by古谷ツネヒラさんの紹介より)という発言が多い。しかし、そういう危機予言はさておき、もう少し冷静に韓国経済のデータや実体をみてみたい。こと金融面については、やれるだけの政策をちゃんとやっているという事実があるんじゃないかと私見では思っている。 リーマンショック以降もどう割り引いてみても経済は急回復している。キャピタルフライト的状況を懸念すれば、通貨スワップの拡充に邁進しているし、インフレ懸念にも対処するなど、政策の割り当てとそのスピードも適切に思える。具体的に経済のパフォーマンスはよく、この30年の平均成長率は7%近い(マイナス成長は80、98年)。

 韓国の実質経済成長率は70年〜80年は平均9%、80〜90年は9.7%、70年代から2010年までの平均実質成長率は7.3%。マイナス成長は二回(80年、98年)。リーマンショックの09年は0%近くまで落ちたが、翌年は6.2%に。ただし11年は3%台、12年も3%台(推計)。

 韓国と日本は、名目GDPの大きさを比べると、韓国は日本の約18%強の水準。中規模の経済国。一人当たりのGDP(≒生活水準)は、1ドル80円とすると、2010年で約166万円。日本の48%ぐらい。日本は344万円。

 韓国のマクロ経済(経済全体)の最大の特徴は、輸出依存の国だということ。輸出志向は朴元大統領の時代に形成された。輸出依存度は2010年で46.0%。日本は14.1。韓国の貿易依存度(輸出プラス輸入を名目GDPで割り、それを100かける)だと2012年だと110%とGDPを上回る。

韓国の輸出依存度はどんどん上昇していて、20年前のだいたい倍。この中味をみると牽引してるのは対中国。輸出の25%超をしめる。対中国輸出の額は、日米ユーロ向けを足したものに匹敵。日本は第四位で輸出では6%のウェイト(あとで輸入については別途書く)。

韓国経済の専門家(評論家ではなく、ちゃんと専門論文を書いているレベルの人)の評価では、対中国輸出がリーマンショックの影響を韓国が吸収する上で貢献したと指摘する。0%近傍から6%台回復。実際に元高ウォン安により09年の対中輸出の落込みは全体の落込みの半分以下。10年の輸出増加を牽引。

片岡剛士さんに教えていただいたが、 07年以降の実効レートの推移を比較してみても日韓の差は鮮明で、日本は高位(円高)安定、韓国は低位(ウォン安)安定だそうだ http://t.co/57sBUIyM

貿易面のミクロの側面もみておくが、韓国と最も輸出の品目で競合度の高いのは日本。日本の競合している産業が円高ウォン安トレンドの中で苦戦しているのかなり鮮明。韓国と中国は競合度は低い。つまり日本とも中国は競合度は低いことを頭にいれておいて(⇔中国発賃金デフレへの反証の直観根拠になる)

 いま韓国の経済格差について質問みたいなのが来たので先に。一応、雇用状況とわけて分配面だけにしぼる(雇用面については後程)。韓国の頻繁に話題になる分配面の話題は教育格差。これもとりあえずあとで。韓国のジニ係数(1に近いほど不平等大きい)は90年は0.25、現在は0.32(2009年

 ジニ係数は90年から現在まで上昇トレンドにある。ジニ係数自体は、日本が09年で0.33なので韓国よりわずかに上。所得格差ではOECD統計では先進国グループの中位。いわれているほど、この所得格差は大きくはない(とりあえず)。ちなみにジニ係数の上昇傾向は、日本と同じで高齢化要因大。

 一般に高齢者は所得格差が大きいといわれている。韓国の高齢化のスピードは、90年には65歳以上の人口の割合は5%未満、現在は11%超。日本は現在は24%ほど。ただし韓国は出生率が世界でも突出して低い国になっていることにも注意。晩婚化やまた女性の労働参加のM字カーブは日本と韓国同じ。

 所得格差はさほどではないが、他方で教育格差はかなりなもの。高卒者と大卒者では1:1.6ほどの開きあり。日本だと1:1.2ぐらい。大学院卒は日本に比べると平均賃金も高い。学歴が高いと大企業に就職しやすく、韓国では大企業と中小企業の平均賃金の開きも大きく倍程度。日本も生涯年収の開き大。

 また教育格差の背景には、親の所得格差が効いている可能性が大きい。韓国の消費支出にしめる教育費の割合は日本のだいたい倍。これが今後、世代をまたいだ所得格差&教育格差の再生産を加速する可能性が大きいかもしれない。

 さて百本&李『韓国経済の基礎知識』(2012年)によると、マクロ経済的な韓国の問題は主に三点。1)輸出依存すぎて中国を中心とした対外の経済の動向に左右されやすい。これに関連して百本&李では為替レートの影響も大きいとしている。ただしこれには僕が読んだ範囲では反論もあるようだ。

 例えば、韓国経済おたく趣味で申し訳ないがw アジア開発銀行エコノミストたちのペーパーRebalancing Growth in the Republic of Korea (By Joonkyung Ha, Jong-Wha Lee and Lea Sumulong)がある。

 Haたちの論文では、計量的手法を使って、為替レートの動向が貿易収支の動向にほとんど影響を与えていないと指摘している(リーマンショックとアジア経済危機除外)。韓国の輸出依存は、1)貯蓄投資バランス、2)前にあげた朴政権時からの輸出政策志向、3)産業構造の特質による。

 百本&李らの本での韓国のマクロ経済的な諸問題の第二点は北朝鮮リスク。第三点は対外債務をめぐる問題。2011年現在で4千億ドルほどが対外債務残高。そのうち4割くらいが逃げ足の速い短期債務。外債の返済能力を示すという外貨準備高/短期債務は現状は2倍以上。ただし08年は1に迫った。

ちなみに11年のユーロ危機時の外貨準備高/短期債務の減少はほとんどない。一時的なウォン安ユーロ高が起きた程度。ただし韓国の対外債務の多くはユーロ圏からのものであり、今後のユーロ圏の動向を注視する必要はある。先ほどのHaらの分析だと危機時では為替が貿易収支に有意で作用することも傍証している。

 この対外金融危機による過度なウォン安防衛のために、通貨スワップなどの活用があるのだろう。

 雇用などについては後日。

韓国経済の基礎知識

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