今回も非常に誌面の元気がいい『POSSE』。ということは日本の雇用や社会保障に問題が山積し噴出している証拠でもあり単純に喜べないわかだけど。
編集部が介護・保育だけではく、生活保護バッシングについても簡単なまとめ記事をいれているのが読者には役立つだろう。ガイドブックは今回は僕もかなり役立った。さてまだすべてを読んだわけではないが、生活保護関係では、後藤道夫氏、そして介護関係では、竹信三恵子さん、そして保育関係では民間の認可保育園に勤務経験のある現職の保育士さんインタビューがとても興味をひいた。
最後の保育士さんのインタビューは、僕も保育園経験者なのであずける側から思っていたことと整合的である。保育士さんの労働条件はやはり過酷だと思うし、また保育園の管理職のプチ専制君主的な色彩もあり、これは閉ざされたミニ社会の顕著な特徴だろう。待遇面を上げると同時に、このプチ専制君主的な管理体制も見直す必要があるなあ、とこれは素朴な感想として以前から思っている。また今回の特集では(いままで読んだものには触れられてないが)学童保育が一番しんどかった(親にも子供にも)。ぜひ学童保育の問題もとりあげてほしい。
後藤氏も竹信さんも相変わらず構造改革が諸悪の根源である。ここらへんはもうこの人たちが意見を変えることはないと思うので華麗にスルーして、生産的な方面に目を転じる。
後藤道夫論文「生活保護制度をめぐる岐路」は、「支配層」(このレトリックは竹信論説も同様)は、規制緩和の結果、福祉社会への転換圧力が高まるのを警戒し、それを防衛する意味で、生活保護の引き下げを狙っている、というもの。そして本論説では、日本の生活保護のおかれている環境を指摘している。
1 生活保護>最低賃金
2 社会保障の保障水準の低さ
長期失業や「半失業」の増加するも雇用対策もまた満足なセーフティネットがない。
「半失業」(劣悪な仕事でもないよりはましなので就いている就業状態)こそワーキングプアの原因のひとつ。後藤論文だと失業と「半失業」あわせると労働力人口の11%
3 子ども手当の事案にもあるように、[無拠出)の社会手当に対する認識が不足。
これは僕も同意。後藤氏も指摘しているが、子ども手当の政策目的は、子供をもつ世帯への経済的援助。その意味では民主党のこども手当は妥当。ところがこれを民主党はちゃんと政策目的を説明しない。そのため景気対策(乗数効果の議論とか本来は筋違いの議論)や子供を増やすための政策などと混同されてしまった。また所得制限などは枝葉末節というか、これも正しい政策の接ぎ木ではない。後藤氏も書いているが、「たまたま子供の親が高い所得を得ていたら、子供は手当をもらわないのではなく、その親に高い所得税で社会に貢献させればよいのです」。まさに妥当な指摘だろう。
4 社会保障費増加と窓口負担の増加
5 居住保障の思想と制度の欠落
これに今回の生活保護バッシングがさらに水際作戦の厳格化などで、この状況を悪化させ、家族と自己への過剰な責任のおしつけにつながることを警戒している。
竹信論説「「主婦労働」の影が福祉を損なう」は、次の一文にほぼ表現できる。「主婦労働の安さを利用して「小さな政府は実現可能」とあおり、低所得者のための福祉の安全ネットを削り取る新自由主義政策が、高浜モデルの礼賛の影にあった。日本型福祉社会構想は、介護保険制度によって消え失せたのではなく、新自由主義とむすびつくことで、ここに新しく息を吹き込まれた」。
高浜モデルは、介護だけではなく、公務サービスを非正規化・民間委託し、それは「主婦」によって担われた。役所の経費削減にはなったが、それはその「主婦」が地元のトヨタ系列の会社に安定的に職を得ている夫がいる家庭によって構造的に支えられているものであり、いわば「主婦」の搾取みたいなものの上で機能したにすぎない、というのが竹信氏の主張である。日本の介護市場の背景に、「主婦」モデルを中心にした賃金や働き方のゆがみを見出すのが竹信論説の特徴だろう。
で、なんか通読しても高浜モデルの例がその代表だが、介護市場のゆがみの主軸が、「主婦労働」の在り方に起因するといわれてもそれを裏付けるものが、(高浜モデルのケースでは)証言ひとつだけというのが気になる。全体的に説得力にみちたレトリックだが、他方でマクロ経済状況に認識含めて、そのレトリックにほとんど納得できない側面を感じている(生産的なものを得られない論文だった)。
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