高橋洋一『バカな外交論』

 世界政治・世界経済のなかでの日本を簡潔に知りたい人にはかなり便利な一冊。外交とは貿易と安全保障の二頭立てである、というのが高橋さんの見立て。

 その結論は至ってシンプルだ。貿易では自由貿易志向、安全保障では日米同盟を基軸にして同じ民主主義的な制度をもつ国々との連携を重視すること。これである。そこから演繹して、前者ではTPP参加を前提にして交渉すること(政治的な例外事項も考慮)、後者では集団的自衛権の行使は当然(国家の正当防衛なので)というのが高橋さんの現状の結論である。

 個人的にはもっと詳細で専門的な記述がほしいところだが、一般の読者にとっては実にハンディな形で、いわば地政学と経済学の総合である「地経済学(Geonomics)」とでもいうべき視点が提供されていて、いまの日本の国際的な位置を考えるときにいい考察の材料だろう。

 いくつか各論で個人的なメモを以下に書いておく。

1 経済制裁の目的は他国の本当の困窮化が目的ではなく、外交的「自省」の手段。「抜け穴」を残すぐらいがいい。

2 国連で解決は楽観的。制度的にも「めったに出てこないラスボス」的位置。

3 固定為替相場制は、習近平国家主席が、沿岸部の福建省浙江省共産党要職を経ているので、この地域は輸出産業中心。自国通貨安に固定(管理フロート)しておくのは命綱的政策。この結果、通貨安=インフレが加速して自国民を苦しめる結果になる。また中国への投資は政治的・社会的な摩擦コストがありやっかい。国際社会での孤立化の加速。中国は「ルイス転換点」(農村部の余剰労働の喪失など)を迎え、他方でシャドーバンキング問題をかかえている。経済的にも歪んだ経済がどうしようもない段階に。

4 ロシア、韓国、米国、北朝鮮、中東、南米などの各外交問題についての簡潔な評価。

全体を読んで、冷戦崩壊までの社会主義vs資本主義から、一元的クローニー資本主義が強い国(中国、ロシア)vs多元的利害社会(日米欧など)との対立に移行しているように思える。

バカな外交論

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