松尾匡他著『TPPと日米関係』

 松尾さんから頂戴しました。複数の著者によるTPPについての検証本です。TPPによる効果は主に効率性を改善することですから、単純な総需要―総供給分析の枠組みで考えると、総供給曲線が右にシフトしデフレが深まることになる…というのが簡単にいうと松尾さんの批判の要点だと思います。このような効率性を増す政策を、不完全雇用のデフレの状態で行うことは、野田内閣のようなデフレ継続を許容する政権に認めることができない。もし野田政権がこの政策を推進するときは、国内だけではなく国際的な労働者の連帯で対抗するべきだ、というのがこの論文の主旨です。

 ただTPPが効率化を促すといってもやはり時間がかなりかかることがまず第一点。それに対しては総需要不足を事実上20年以上も放置しているので、いまの野田政権のようにこの放置を維持する見込みの強い政府にTPP参加を認めるわけにはいかない、というのはひとつの道理でしょう。別様にいえば、デフレ脱却と総需要不足が安定的に解消した場合には、TPP的な枠組みへの参加はより積極的なものに転じるということかもしれない(ただしこの総需要不足解消のケースでも、松尾さんはTPP的な枠組みへの参加に留保をつけている)。

 ところで、僕は前にここで書いたように、野田政権には市場中心の経済設計に必要な信頼性に欠けていると思うので、野田政権によるTPP交渉への参加は反対だ。この点では松尾さんと意見は同じだ。また森永卓郎さんにTPP推進派という評価をうけた若田部昌澄&栗原裕一郎本でも、TPP交渉の最大の不安が野田政権であるという点ではやはり同じなのである。

整理するとこんな感じだろうか

         TPP交渉入り TPPに積極的に参加すべき  TPP交渉を野田政権にやらすべき
松尾       △           △ないし×          絶対×
田中       ○           △              絶対×
若田部&栗原   ○           ○              ×(不安)

ところで松尾さんは小泉「構造」改革で失業者が増えたとしているが、それは小泉政権後期に関しては端的に誤りである。

TPPと日米関係

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