川井徳子さんとは10年来の知人であり、以前からその歴史的な感性と素養に裏打ちされた現代の日本をみる視点には、はっとさせられることが多々ありました。今回、川井さんの初めての著作である本書を一読して、いままで川井さんとの対話で得てきたものがほんの氷山の一角であることを知りました。本書は、難しい「不良債権」物件を見事に甦らせる若き女性経営者の逸話という形を一応は借りています。例えば、荒廃した名庭園―何有荘を復活させ、それをクリスティーズを通して世界市場で売却し、日本でも過去にない市場を開拓した手腕、あるいは不良債権を競売で得て、いまや『ミシュランガイド 京都・大阪・神戸・奈良2012』で二つ星のホテルとして掲載されるまでの素晴らしいホテルとして再生したその手腕、そういった経営物語としても、この本は読むことは可能です。しかし本書には、表題にあるように「物語力」、それは川井さんの言葉を借りれば、人間が生きていく上で持っている「水面下の大きな部分」、つまりアイデンティティのよってなるところを解き明かしていくことでもあります。それはすぐれて文化と経済の結節するところでもあるのです。この「物語力」という視座で、川井さんが手がけられた多様な事業展開をみていることは、「物語の経済学」を最近の専門としている僕にとっても無視できないものでした。川井さんとはこの本をめぐるお話をすでにより深くお聞きしていて、それは近々、real Japan.orgの対談シリーズで公開します。お楽しみに。
- 作者: 川井徳子
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2011/11/25
- メディア: 単行本
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