終りの始まりか?


 週明けのアメリカの株式市場はいわゆるガイトナー・プラン(不良債権の買取りプラン)が市場に好感されたことにより株価が急激に上昇した。アメリカが潜在的に有すると思われる不良債権の規模は約2兆ドル(IMF推計)と推定されるが、その半分近い額をガイトナープランでは射程にいれて処理を図る手法といえる。


 このガイトナープランについては、デロングがわかりやすいQ&Aを書いている。ただ内容的には以下の朝日のネット記事でも十分にフォローされている。

 不良債権処理 米政府、最大1兆ドル買い取り目指す
 http://www.asahi.com/business/update/0323/TKY200903230333.html


 ところで日本が曲がりなりにもデフレ期待が解消の方向に向かい、03年からしばしの景気回復局面を迎えた要因を復習しておこう。その要因として、1)量的緩和の拡大を伴った円安介入(結果としての非不胎化介入)、2)りそな救済に典型的な不良銀行の救済、その後の株価の反転による不良債権問題の解消、3)対中国、対アメリカなど輸出の貢献 などであった。そしてこれらの要因がいまだ不十分である、という批判としては、A)明示的なインフレ目標の導入、B)長期国債買いオペの増額、C)出口戦略の構築(十分な物価安定後の量的緩和政策の解除)、などであった。


 今日のアメリカ経済が本格的に復活するか否か、上記の要因と今日のアメリカ経済の様相を対比させてみよう。


1)量的緩和の拡大を伴った円安介入(結果としての非不胎化介入)

USA1)信用緩和政策の採用、為替レートは内生的に決定


2)りそな救済に典型的な不良銀行の救済、その後の株価の反転による不良債権問題の解消

USA2)金融機関への資本注入、今回のガイトナープランなどの不良債権買取→株価反転は維持されるか?


3)対中国、対アメリカなど輸出の貢献 

USA-3)中国経済の安定よりも、アメリカの場合は国内の資産効果をより重視すべき。特に住宅市場の安定が重要ではないか。


A)明示的なインフレ目標の導入 

USA-A)FRB検討中


B)長期国債買いオペの増額

USA-B)先週、実施決定


C)出口戦略の構築

USA-C)ビハインド・ザ・カーブ戦略の必要性(参照:バーナンキFRB議長のスピーチ)
さらにFRBのバランスシートの健全性のための財務省とのアコードの成立(日本語の記事はここ)!

ちなみに日本銀行は、財務省つまり政府が日本銀行のバランスシートの毀損回避の面倒をみるという提案を絶対に拒否するでしょう。理由は単に嫌だから(合理的理由は不明)。アメリカでは今回のアコードがFRBの独立性を支持するために行われたのに対して、日本では日本銀行はアコードが自らの独立性(意味不明だが)を侵すものとしてとらえているようである。この意識の差はかぎりなく大きい。


おおざっぱだが、日本の一時的な「回復」と比較してみるといくつかの共通点と相違点がある。1)については、FRBの迅速な信用緩和(バランスシートの膨張と構成変化)は特筆に値するであろう。日本では不十分と指摘のあったUSA-B)についても現状では意欲的な取り組みを表明している。例えばFRBはこの信用緩和政策で実質利子率の低下による緩和効果を狙っている。この直近のFRBの実質利子率への緩和効果が一定の実効性があったことは、今日の本ブログの次エントリーを参照のこと。


 2)については、りそな救済後の株価反転という事例と、今回のガイトナープラン(事実上の不良銀行の救済案)が株価の急激な反転を現状でもたらしたのをみるとそれに対応しているような気もする。気がするのでこのエントリーをそもそも書いているのだが 笑。今後の株価動向に注目であろう。また原田・大和総研でも指摘されているが、そもそもの不良債権が経済を拘束しているにしてもその規模は、日本の「失われた10年」の半分程度である。またいうまでもなく日本がバブル崩壊後7〜10年かけてきた不良債権処理のスキームを事実上この半年ほどで実施しているといえ、そのスピードはある意味で驚異的である。


 3)についてだが、はてブの方でecon2009さんにフォローいただいているが、「住宅市場ですが、新規着工や中古住宅販売は回復への兆しと見ることが出来るかもしれません。米国における資産効果の実証結果は好況期のものなので今回のような状況においてはあまり信頼がおけませんね。どうなるか」とのこと。

中古住宅の改善の兆し(とまだ分からんよ、という観測含めて)、Calculated Riskブログのここここここを参照。


また新規着工の底が来たかも、という同じCalculated Riskブログのここを参照(ただし住宅価格の方はまだ底は来てないよ)


逆資産効果ですが、やはり上記の住宅市場の底入れによって改善することはいえるのではないかと思っています。


大恐慌期のアメリカとの比較をしようと思ったがいろんなところでやられているので省略して 笑 、上の直近の日本との比較をみると、アメリカの対策は政治的な交渉の面や世論の基調(やりすぎ懸念の増加)などさまざまな障害があった(これからもある)にせよ、ものすごいスピードであること、さらに規模も(クルーグマンなどの批判はあるにせよ)規模も過去の日本とは比較にならないほど徹底していること、経済部門の協調が目覚しいこと(FRBと政府のアコード、さまざまな資本注入・不良銀行建て直しなどのスキーム構築、バランスシートの急拡大と財政余剰の確保など)、正直にいえば日本の経済当局は何をしているのか? という素朴な思いを拭いきれない。


もちろん決定的に経済状況が底入れをした証拠はまだ乏しいのだが、おそらくここ1、2ヶ月で鮮明な反転の兆しが見えるのではないか? まあ、もしまだ反転していなかったらそれでもどんどん試行錯誤をしていけばいいと思う。日本のように小賢しい小出し政策より何ぼかましだから。


なお、過去の日本との対比では財政政策の役割についてふれるのをわすれたが、高橋洋一氏の指摘があるように、意外と小泉政権下ではそれほど極端な財政緊縮スタンスではなかった(とはいえ積極的でもなく単にマクロ経済の教科書にあるような自動安定化機能が作用しただけだけど)。それに対してオバマ政権のスタンスは大規模な財政出動になっている。