経済学・政治学著作2011年度上半期ベスト

 『週刊東洋経済』で同様のベスト3を選べというアンケートに毎回参加しているんだけど今年も投票した。どんな本を選んだかはみてからのお楽しみだけども、いつものように基本的に翻訳ものはそちらの方のアンケートでは(少なくとも経済書では)選んでいない。ここでは翻訳物を含んだ広範囲なベストを紹介してみたい。

経済関係で昨年の12月からいま現在まで心に残ったものは『AK…というのは冗談だが(とはいえたぶん経済書の中ではもっとも話題になったものの一冊だと自負はしているw)、やはり東日本大震災をめぐる問題をテーマにしたものを選ばないといけないというバイアスがどうしても働く。その中でも最も価値のあるものは、やはり

岩田規久男先生の『経済復興』にとどめをさすだろう。実際に石橋湛山の戦後のインフレ政策についての解釈を読んだときは日本経済思想史の専門家としても「やられた」と思うほど切れ味するどく斬新。もちろん復興の斬新的な提言もばんばんだしていて、いま話題の焦点であるエネルギー政策についても、被災地の都市計画についても実践的な解法を提起してくれている。

経済復興: 大震災から立ち上がる

経済復興: 大震災から立ち上がる

次に大震災を逆手にとってやたら内向きな意見が最近多くなったTPP関連。特に日本の農業とそのマスコミ、知識人たちの発言に焦点をあて、また監督官庁農林水産省や既得権団体(農協とか過度に保護されてる「農家」層)発の喧伝を問題視しているその容赦のない舌鋒で、浅川芳裕さんと飯田泰之さんの『農業で稼ぐ!経済学』を推したい。マスコミの農業をめぐる報道になんとかのひとつ覚えのように出てくる、「小規模零細」「高齢化」「後継者不足」「耕作放棄地の増加」「先進国最低レベルの自給率」という負のキーワードと、「食の安全」が侵され、「食糧危機」を煽るというマスコミのよくある手口を、本書は冷静かつ熱い口調で、データと単純明快な理論とともの解き明かしていきます。

ところでこのマスコミの負のキーワードを「日本の下請け構造」「高齢化」「若者ダメ論」「欧米にキャッチアップしたので発展の余地なし」「先進国最悪の国債発行残高」とかに書き換え、そして「将来の安定」が侵され、「財政危機」になる、とでも書きかえれば、日本銀行問題を中心にするいまの大停滞に関するメディアの書き手のマインドを鮮明に描くような気がしている。本当にこういう農業もそうだけど、ほとんどの新聞の記者連中の書き方が官僚発なのはやれやれである。

農業で稼ぐ!経済学

農業で稼ぐ!経済学

で、一番面白かったのが(でも自分がかかわったし、それに翻訳ものだったのでアンケートには書かなかった)タイラー・コーエンの『創造的破壊』。かれの新作の『大停滞』もまもなく翻訳がでるみたい。翻訳もので面白いものはピーター・T・リーソンの『海賊の経済学』。ただ僕個人があまり海賊ものが好きではなくて、なんとone pieceもパイレーツ・オブ・カビリアアンもそれゆえまったくみていない、ちょっと読むのに難儀したけれども、無法者たちがなんで海賊団という組織をまとめることができるのか、ひとつのマネージメントのあり方として読むこともできるかも。これを読むとAKB48の成功とやがてくる失敗の主因も予測できるかも…しれない? 笑。

海賊の経済学 ―見えざるフックの秘密

海賊の経済学 ―見えざるフックの秘密

政治関係では1冊だけをご紹介。東洋経済で一位にあげたものじゃないw(それは読んでからのお楽しみ)。

原書で読んでてなかなか面白いなあとおもったもので、まさかこんなに早く翻訳がでるとは思わなかった。ぜひ小田中直樹さんの『ライブ合理的選択論』やブライアン・カプランの『選挙の経済学』などと一緒に読んでほしい。

数と正義のパラドクス 頭の痛い数学ミステリー

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