上念司『「日本ダメ論」のウソ』

 上念さんの最新作は、デフレ脱却を本気でしようとしない我が国の日本銀行への批判を中核にしながらも、日本の各所ででまわっている様々な俗説を論破していく痛快な本になっています。

 ご本人も認めるように、今回は経済問題だけではなく、憲法問題、地政学的関心からくる領土問題、尾崎秀実や徳富蘇峰らへの批判、日本の無条件降伏などの再解釈などを提起していて、それぞれが論争的な題材を提供しているでしょう。

 僕がやはり一番共感したのは、何度も何度も日本のデフレ問題について繰り返し世の中に真実を告げていこうという上念さんの姿勢だと思います。最近、ある有力政治家と話す機会があってや、はりその人は頭はいいと思うのですが、いっていることの99%が官僚たちの答弁みたいな話の延長上にありました。よく聞いてみると、やはり財務省日本銀行の人、その出身者、またはいわゆる「御用学者」だけからしか政策の話をいままで聞いたことがないそうです。おそらく多くの政治家たちはそのような知的な閉塞状態にあるのではないでしょうか? 上念さんは、詳細に書くことは控えますが、日夜、そういう政治家たちの知的閉塞状況を緩めようと、必死に頑張っています。

 日本のように人の足をひっぱり出る杭を叩く心性が世論に強い社会では、そのような上念さんの活動を叩く人も多いでしょう。しかし政策は自然現象の結果として変わることはないのです。しかも本書の多くで言及されているウソの多くが、実に巧妙につくられた既得権層の利益を守るためのロジックであったり、または真理を認めようとせずに組織をあげて抗している状況がある中で、その闘いは困難を極めています。そんな状況の中では、誰かが叩かれても叩かれても主張を続けるほか、政策は変わりようがないのです。しかも日本の独特の風土ゆえ、叩く側にはなぜか既得権の利益にあずかっていない多くの世論まで加勢しがちな傾向があります。それを上念さんは本書で「お上性善説」として言及し、批判を展開しています。

 例えば本書では次のように述べられています。

「海外において「金融政策が物価に影響を与える」などといういことは、ごくごく当たり前の話で、議論の対象にすらならないのです。しかし、わが国においては、そんな初歩の初歩の議論を10年以上も続けているのです。国民の方も呑気なもので、日銀という「お上」が「きっとみんなのためを思っていろいろ頑張ってくれているのだろう」という楽観論を性善説を信じ切っています。これでは、デフレから脱却するどころか、健全な日銀批判すら、「頑張っているのに失礼だ」といって「礼儀」の問題にすり替えられてしまいます。こんなことをやっていたら、デフレは20年でも30年でも続いて、私たちの住む日本という国は本当に大変な生き地獄となってしまうでしょう」

 「礼儀」や「丁寧」にいえば、「お上」は政策を変更してくれるのでしょうか? それは議論のすり替え以上に、愚論の極みなのですが、実際に日本人の「お上性善説」にはたえずこのような欺瞞がつきまとっています。

 上念さんはプロの経済学者でもエコノミストでもありません。一介の論客です。いまから7,8年前に初めてお会いしたときの戦闘力を1とすればいまやスーパーサイヤ人のようになりました。おそらく日本銀行が警戒すべき一般人の最先端に上念さんはいるでしょう。本書を読まれた方の中から第2、第3の上念司がでることを期待してやみません。

「ウソも100回言えば本当になってしまうとしたら、本当のことも100回言わないと人々には伝わらないかもしれない」(上念司さんが浜田宏一先生に述べた言葉より)

「日本ダメ論」のウソ マスコミ・官僚にダマされるな! 日本は崩壊しない! (知的発見!BOOKS)

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