日本政府の負債ゆえ「国家破産」を唱えるさまざまな妄説のたぐいをわかりやすく論駁していて一気に読める。日本がアルゼンチンやギリシャのように「財政破たん」するという論者には、アルゼンチンとギリシャの経済体制の違いから詳細に語りおこし、その認識の間違いを指摘しているところは特に必読だろう。
また「人口減少している国はデフレ」という最近流行のトンデモ経済学にも本書は(まだいい足りないところは最近の上念さんのTwitterがフォローしている)批判していてすっきりした見通しを与えてくれる。
そもそも国のバランスシートをみたときに、なぜ負債側だけが誇張されるのか、そのおかしな宣伝(財務省発だがいっこうにあらためる気配はない)を徹底的に暴き、日本の財政をバランスシート的観点から客観的にみていることもわかりやすいだろう。
また日本の財政の維持可能性を高めるには、まずは現状のデフレを克服することが重要であり、金融政策を発動するとデフレが急にハイパーインフレになる、というこれまた妄想の類にも厳しい態度で臨んでいる。
本書の多くは良識で書かれている。それを裏付ける簡単なデータとちょっとした初歩的な経済理論。これで多くの日本国破たん論の類が消滅してしまう。このことは他面で、いかに多くの国民が、「オレオレ詐欺」のようなあからさまな手口を見抜けないでいるかの傍証にもなっているのかもしれない。
上念さんの現実主義的スタンス(いまここにある危機をとめよ)は本書でも鮮明だ。
「その意味では、今われわれが一般市民ができることは、ミクロな生活防衛術を最低限行いつつ、日銀法を改正してくれるよう国会議員に働きかけること、またはそうした志を持った人を国会議員に当選させることが重要です。愚かしいデフレ政策が二度と採用されないような新しい経済政策の枠組みができないかぎり、リスクをとればとるほど損をする世の中は終わりません。お金をため込むより、使った方が得をする社会を作るのは、政府と日銀の役割でなのです」
とある。まさにその通りだろう。ナイーブな学者たちは、政策を論議しながらも(つまらぬ細部に文句をいったり、あるいは単に億したりするだけで)政策がいつの間にか実現しているかのような妄想の世界に耽ることがしばしばだ。その中で上念さんのような存在がそういったナイーブな精神腐敗患者たちを補っているように思える。問題はまだまだ人手が足りないことなのだ。本書を読んだ読者がその担い手になることを願っている。
日本は破産しない!?騙されるな!「国債暴落で国家破産!」はトンデモ話だ!
- 作者: 上念司
- 出版社/メーカー: 宝島社
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高橋洋一さんの下の本とも合わせて読むと効果倍増
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