ポール・クルーグマン「「インフレ目標4.0%」のすすめ」

 『Voice』6月号のクルーグマンのインタビューです。

 ギリシャ危機は、ギリシャの財政コントロールが伝統的に出来ていないと、さらにユーロに加盟したことで自国通貨の切り下げをすることもできずに、ギリシャの財政危機はある意味必然というのがクルーグマンの見立てですね。他にもアイルランドポルトガル、イタリアの財政危機の可能性もあるが、ギリシャほどひどくない、という観測です。それをうけて、日本の財政状況も20年持ちこたえるような状態ではない、というの発言を。

 ところでクルーグマンの財政危機の真因は、この20年以上にわたる経済の停滞にあります。ここが日本にいる財政危機論者と決定的に異なるところでしょう。そのためクルーグマンが提起する財政危機の回避方法は、とりあえずは外需主導の経済成長を達成できるか否かが現実的可能性としてあります。

 日本が自らその長期停滞から脱するにはインフレ目標を3,4%に設定する必要がある、とクルーグマンは指摘します。少なくとも2%は目標にすべき(いやいや、もっと高くてもいい)と助言。そして日銀はいまのところそれを達成するための「荒療治」の意識はあるようにみえるがはっきりしていない、と。ここはクルーグマンもちょっと甘く、田中的にはむしろ2%に向けては日銀は現状それを「物価安定」とみなしていないのでそこまでの「荒療治」をする覚悟は微塵もないと思います。

 「そもそもFRB自体、まだ十分にやれることがあると思います。バランスシートをみると、あと2兆〜3兆ドルは拡大の余地がある。アメリカの失業率はまだ高いし、デフレの恐れも回避されていません。日本についても同じ状況がいえると思います。とにかく日銀は、デフレを脱して日本経済を成長軌道に導く、ということを最終目標にすべきです」

 そしてなぜ日本だけ極度のデフレなのかという問いに、クルーグマンは事実上、日銀と政府がやれることをすべてやっていないから、だからいまは「やれることはすべてやるべきでしょう」と答えます。

「やれることはすべてやるべきでしょう。すなわち赤字国債による財政支出政策金利をゼロに据え置くこと、非伝統的な資産(例えばCPやモーゲージ証券など)を購入することによる量的緩和中央銀行のバランスシートの拡大、消費を促すためのインフレ目標の公表などが含まれると思います。あなたがいうとおり、いまの日本は完全にデフレ・スパイラルに陥りそうな状況です。繰り返しますが、やれることはすべてやるべきです」

 この「やれることはすべてやるべき」というのは、僕も経済危機当初から主張しています。というか普通の訓練をうけた経済学者ならばそのような態度でしょう。だが日本の政策当局、多くの経済学者、エコノミストはいまも「なるべくやることを減らす」ということを選んでいるようです。経済学者とエコノミストはおそらく論文を書くことと、政策の区別、つまりモデルと現実の区別という実線的な態度を忘れているか、あるいは単に日本経済の成長軌道へ回復という目的とは異なる動機で、政策提言しているのかもしれません。

 さて財政出動については、クルーグマンはアメリカ、日本ともにまだ大規模な財政出動が必要であり、日本は経済回復後に緊縮財政政策を行えばよいと提言していますが、いまの段階ではどれも採用されないのではないか、という懸念を表明しています。

 このインタビューはほかにも、中国とアメリカの関係、人民元問題、アメリカの経済政策について彼の最新の見解が述べられていますので必読でしょう。

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