『Voice』三月号から岩田規久男先生の新連載「日本「低成長」脱出論」がいよいよ始まりました。ともかく多くの人に読んでほしい連載です。第一回はいきなり直球勝負で「景気低迷の真犯人を追うー構造改革はなぜ空振りしたかー」です。経済成長をもたらす要因を丁寧に説明し、なぜ日本では低成長なのかをわかりやすく解説していきます。
特に日本の低成長を供給サイドにもとめる考えを「構造仮説」として、「日本的経営の不適合説」「銀行の貸し渋り説」「規制改革と政府企業の民営化の遅れ説」「非効率な公共投資説」などを具体的に検証していきます。特に「銀行の追い貸し説」、つまりゾンビ企業に追い貸しをしたために経済全体の全要素生産性が低下したという説を詳細に論評していくのには、僕もとても勉強になりました。
結論は最近の実証研究がこのゾンビ仮説の妥当性を低下させているというものです。ここで注意すべきなのは、ゾンビ仮説が90年代の長期停滞の説明としてそれほど説得的ではないということです。と同時に岩田先生は日本に構造問題がないといっているわけではなく、その構造問題は90年代にいきなり生じたものではなく(その意味で構造仮説を90年代の実際の低成長の説明とするのは無理)70年代以降、潜在成長率を低下させるものとして存在しているということも指摘しています。
では90年代から今日までの低成長の主因は需要サイドにあることになります。岩田先生はこれまた詳細に分析した結果(ぜひ一読して勉強してください)「供給サイドの要因と思われている労働投入の増加率や資本投入の増加率の低下も、本をただせば需要サイドの要因が原因である」と結論しています。さらに全要素生産性の低下自体も需要サイドの要因によるとして、供給サイドへの需要サイドの影響を指摘してもいます。
さらにこの需要サイドの問題が日本銀行の失敗によるものであること、デフレの下での構造改革(民主党政権でも過去の構造改革と同じ発想のものがとても多い)は効果が薄いということを指摘しています。
いままで岩田先生の論著をたぶん人の数倍も読んでいる僕でも今度の連載で新しい論点やその対処を多く教えてもらいました。お得な連載です。ぜひ日本経済を本格的に理解する鍵として読んで一緒に議論したいものです。
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