「理解」と「目標」の近くて遠い関係ー金融政策決定会合雑感ー

 日本銀行の「新」資金供給方式に、物価安定に関する「新」「理解」が付け加わった。

6.本日の金融政策決定会合では、上記認識のもとで、「中長期的な物価安定の理解
(以下、『理解』(注2))」について検討を行った。その結果、委員会としてゼロ%
以下のマイナスの値は許容していないこと、及び、委員の大勢は1%程度を中心と
考えていることを、より明確に表現することにより、物価の安定に関する日本銀行
の考え方の一層の浸透を図ることが適当であるとの結論に至った。
7.このため、「理解」については、「消費者物価指数の前年比で2%以下のプラス
の領域にあり、委員の大勢は1%程度を中心と考えている。」とすることとした。
8.今回の世界的な金融危機の経験を踏まえ、物価安定のもとでの持続的成長を実現
するうえでは、資産価格や信用量の動向など金融面での不均衡の蓄積も含めたリス
ク要因を幅広く点検していく必要があるとの認識が、各国においても拡がっている。
日本銀行としては、上記の「理解」を念頭に置いた上で、様々なリスク要因にも十
分注意を払いつつ、2つの「柱」(注3)による点検を行い、適切な金融政策運営に努
めていく方針である。

 デフレ脱却を政策目的として「より明確化」したことは評価していいだろう。もちろんわが国の日本銀行の基本姿勢は8の「資産価格や信用量の動向など金融面での不均衡の蓄積も含めたリスク要因を幅広く点検」を理由にして、結果的に今日のようにデフレに陥ってしまったことにある。すでに日本銀行応援団の経済学者(誰だかは明瞭なので言うまでもないが)は、日本経済が高い失業率、進展しているデフレとデフレ期待を目の前にしてさえも、「バブル」の発生に警鐘を鳴らしている。景気が回復していけば現状よりも株価や様々な資産価格が上昇していくだろう。すでに前回の景気回復局面においてさえもこの点を過度にとらえて、一刻も早く「出口戦略」を取ろうとしたのがわが国の中銀の実体であった。その点はこのブログの最初期のエントリーをみていけば明瞭にわかる。そこで私たちが注目してきたのは、金融面のリスクだとか「バブル」(上記の「資産価格や信用量の動向など金融面での不均衡の蓄積も含めたリスク」の世俗的表現)だとかをけん制して、結果的に今回のようなリスクの出現への対応に失敗した日本銀行の姿である。それは結局は、この日本銀行用語である「理解」が「目標」ではなかったことに理由が求められる。国民の懐が温かくなるはるか手前で、日本銀行は近い将来にこのリスク要因を持ち出して(しかも緩和的な局面を強調しつつ)実質的な引き締めに転じる可能性が高いだろう。

 「理解」と「目標」がどれだけ離れているか、それを日本銀行総裁はじめ周辺の「解説」の中身に求めるつもりは僕にはあまりない。その距離を図ることばはひとつで足りるはずだからだ。それに対して、距離自体をあやふやにする言葉はいくつも考えられる。

 日本銀行の「新」政策対応が小出しと遅れの政治ショーにこれ以上ならないことを真剣に祈りたい*1

*1:祈るだけではダメなのでいろいろ模索したい