ラモ『不連続変化の時代』(田中秀臣長文解説つき)

 今日、発売予定の『不連続変化の時代』。これはいわゆる「創発」の社会・経済論といっていいでしょう。僕はお世辞ではなくとても勉強になりましたね。解説を引き受けなければ、たぶん複雑系とか創発とかそういうものはスル―していたでしょう。この本から得たものは、太田出版から出ている『atプラス』の第二号にも書きました。テロリズムや社会不安、そして大規模な金融危機などを考察するいい素材になるでしょう。

 以下は、この翻訳についている僕の書いた長めの解説から一部分を引用したものです。

ラモは、デンマーク理論物理学者パー・バクの「自己組織化臨界現象」の研究に注目した。ラモの研究は、気象や地震などの大規模な自然環境の変化、また資本主義経済の変化、都市の人口分布や産業の集積のあり方など、大規模なシステムの不連続的な変化をとらえようとしたものである。
例えば大規模な組織の自己崩壊を、バクは本書でも紹介されている砂山の崩落を使って説明している。砂を一粒一粒積み上げていき、円錐形の山をつくる。最初は何の問題もなくどんどん砂山ができていくだろう。しかし山の斜面が大きくなっていくと砂が滑り落ちるかもしれない。次の一粒の砂がこの砂山に大崩落をもたらすかもしれないのである。これは自然現象や大規模な社会現象に適用可能だという。このケースでは何番目の一粒の砂が大崩落をもたらすか予測不可能である。バクは、自然界でも経済現象でも規模が大きくなるほど、不安定な臨界状態に陥り、臨界状態に達すると自然界の環境の激変や経済危機が発生することを指摘した。このバクの理論は経済学者にも早くから注目されていた。例えば08年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンはその受賞対象となった経済地理学の貢献に関連して、このバクの研究を高く評価した(ポール・クルーグマン『自己組織化の経済学』東洋経済新報社を参照)。また現在、FRB(アメリカの中央銀行)の議長であるベン・バーナンキと同じ経済学の立場にたつコロンビア大学マイケル・ウッドフォード教授と共同して、バクは「自己組織化臨界現象」」をとりいれた景気変動の分析をしたことでも知られている。
ラモは「自己組織化臨界現象」の理論をもとに、予測不可能な社会の危機にどう対処すべきか、どのように社会は安全保障(セキュリティ)を構築すべきか、を本書で考えている。

不連続変化の時代: 想定外危機への適応戦略

不連続変化の時代: 想定外危機への適応戦略