ポール・クルーグマン『自己組織化の経済学』とシェリング分離・融合モデル

 ちくま文庫からクルーグマンの『自己組織化の経済学』が復刊されていた。この小著は何回か読んだけれどもいまだに価値を失わない古典だろう。その中でも最も好きなのがクルーグマンによるシェリングの分離と融合モデルの解説である。あとで利用するかもしれないのでここでその部分を引用しておく。

 クルーグマンはトマス・シェリングの『ミクロ的動機とマクロ的行動』の中の分離と融合モデルを扱った章を紹介している。ここでいう分離と融合とは、人が住居を選択するときに、隣人の存在を非常に重視することが、人々の棲み分けのパターン(分離と融合)に影響を与えるということである。クルーグマンによれば、シェリングのモデルが示した自明ではない二つの点がある。

「第一に、隣人たちの肌の色や文化に対して、それほど好き嫌いが激しくなく、表面上は融合して暮らしているようにみえるが、その好き嫌いの微妙な違いが実際にはきわめてはっきりした分離につながるということである。その理由が、人々の好き嫌いがそれほど激しくなく、「肌の色が違った隣人が何人かいても気にならない。自分が極端に少数派でなければね」」といっているときでも、融合して暮らすといおうパターンは、人々のあいだに時として起こる動揺のために不安定になりがちだからである。第二に、各住民の関心がごく近隣に向いており、自分のすぐそばの隣人についてしか関心がなかったとしても、住民はグループごとに大きく分離するパターンを形成する」(邦訳、30頁、ただし東洋経済新報社版)。

 つまりある人はそこそこ隣人に対して「寛容」であってもそのことが時として大規模な分離をもたらしてしまうということだろう。クルーグマンはこのシェリングの主張をチェスの図を用いてより直感的に説明している。このシェリングの分離・融合モデルは今日のサブカルチャーを考えるときにも(おたくの行動様式の分析)有効なような気がする。

シェリング関連エントリーhttp://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20091103#p2
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20080411#p2

自己組織化の経済学―経済秩序はいかに創発するか (ちくま学芸文庫)

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