クリスティナ・ローマー:1937年の教訓

 英雑誌『エコノミスト』掲載。

 http://www.economist.com/businessfinance/PrinterFriendly.cfm?story_id=13856176

 大恐慌からの本格的な回復は、第二次世界大戦という「軍需」によるものだという「俗説」がある。ローマーは実際にルーズベルトが大統領となる1933年からの四年間の回復は実は目覚ましいものがあり、年平均GDP成長率は9%以上、失業率も25%から14%に急減した。しかし不幸にもこれが持続しなかったのはなぜか。これがローマーの指摘する「1937年の教訓」の核心部分だが、それはこの37-38年の財政政策と金融政策が引き締めスタンスに移行したことで、経済成長が安定化せず、完全雇用に達することなく、またもや厳しい不況に転じたからである。36年までの第一次世界大戦の復員軍人への恩給が停止、さらに社会保障税の増額などでGDPは2.5%も下落した。

 この財政引き締めに加えて、金融引き締めも同時に生じた。FRBは金融緩和が行き過ぎたとして「出口戦略」に失敗したのである。民間銀行が超過準備をもつことで、それが投機に利用されることを警戒したFRBは必要準備を二倍に引き上げたのである。フリードマンとシュワルーツによれば、これこそ37-38年の不況をもたらした信用縮小の原因である。


 現状の政策では2011年まで財政政策は拡大スタンスであるが、これもGDPギャップの存在に応じて柔軟に継続されるべきである。そして金融政策だが、FRBのバランスシートが今般の危機で倍増していることに応じて、市場では出口戦略に注目が集まってる。ローマーはFRBFRB債を発行する権限を与えることで、バランスシート膨張のリスク(=過度のインフレ)を回避し、しかも金融引き締めに依存しない戦略が可能だと指摘している。この点は財務省との協調で行うことで、事実上、バーナンキがかって日本のデフレ対策で主張していたボンド・コンヴァージョンと基本的な機能が同じである。

 ローマーはまた(日本ではなぜか“上げ潮派”とレッテルを貼られたが、普通の経済学の知見である)GDPと債務の比率が一定値に収束すること(つまり成長率が安定軌道にのること)を前提としたうえで、それとともに健康保険改革をすすめれば、長期的な財政の維持可能に大きくやくだつと指摘している。つまり成長戦略(不況の完全脱出)と構造改革とはこの点において矛盾しないのである。

(付記)ふう、まる一日、ローマーをおねえまんにしてしまったw