日本銀行の金融政策が、2年以内にデフレを脱却し2%のインフレ目標を達成する可能性が高いことを簡単な数式で説明し、さらに消費、雇用、賃金、投資、為替、金利などへの波及を、実現の見通し時間を含めて、これまた簡単な数式とグラフで説明したとてもいい本です。
やはり数式を簡単なものであれ利用すると本当に見通しがよくなります。反面、読者にはもてない側面もでてくると思いますが、この本は数式を読み飛ばしても言っていることが重要&明快なのでぜひ手元においておき、ゆっくりと読むことを勧めたいですね。
さて僕はいまの日本の最大の障害は、財政再建主義の歪みだと理解しています。消費税増税の自己目的化、国債市場関係者というごく一部の既得権者による国債金利の異常な低水準志向などは、すべてこの財政再建主義の一部として理解できます。
本書では、簡単な数式を利用して、このような財政再建主義への批判をあわせて行っているといっていいでしょう。具体的には141頁から146頁までの記述です。
1)財政破綻が起こらないための必須要件は、債務残高対GDP比が発散しないこと
2)以下の式が財政再建を考える基本式。
△(D/GDP)=−PB/GDP−(g-r)(D/GDP)−1
スマホなどでは最後のー1の大きさがわからないかもしれないが、下付きの数字。つまり一年前の債務残高(D)とGDPとの比率。PBはプライマリーバランス、gは名目成長率、rは国債金利。△は増分、差分。
3)gとrはほぼ等しい。すると2)式から債務残高対GDP比率の増分は、プライマリーバランス対GDP比率によって決定される。
4)プライマリーバランスは一年前の名目成長率で決まる。「1年前の名目経済成長率を仮に5.5%とするとPB/GDPはゼロとなり、財政再建は達成できる。成長率が4%程度でも、歳出をカットすればやはりPB=0にすることは可能であり、やはり増税は必要ないことがわかる」
5)名目経済成長率は2年前のマネーストック増加率で決まる。5%の名目経済成長率にはマネーストックを8.75%、4%にしたいなら7.5%増加させればだいたいいい。ここらへんは実践的にやればおおまかでいい。
このような高橋さんの指摘から、僕はいまの日本銀行が一段の金融緩和を行うべき余地がでてくると思う。ひとつにはいまの政府と白川日銀時代に交わした名目成長率4%目標は低すぎるのではないか、ということだ。本来的な財政再建のためには、4%よりも5〜6%の目標が適切なのは自明だ。
さらにこの名目経済成長率5〜6%を実現するためには。5)から日銀はいまの時点でさらにマネーストックの変化率を高める必要がある。そのためにも長期国債の保有残高の引き上げなどバランスシートの拡大が必要だろう。
このような具体的な数字を用いた議論ができるベースを本書は読者に与えてくれる。
日銀新政策の成功は数式で全部わかる! ―白黒はっきりつけよう! ―
- 作者: 高橋洋一
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2013/06/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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