山口広秀日銀副総裁の「嘘」と分裂気質的姿勢

 ちょっと前になるが衆議院予算委員会で、民主党の池田元久議員の質問に対して、日本銀行の山口広秀日本銀行副総裁は以下のような発言をしたとロイターは伝えた。

http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK035953920100205

 山口広秀日銀副総裁は衆院予算委員会で、マネタリーベースが伸びていないとの指摘について、日銀のバランスシートの拡大の程度自体は「金融緩和の程度を反映したものではない」とし、「米連邦準備理事会(FRB)とのバランスシートの拡大の差は、金融資本市場の痛み具合を反映したもの」と説明した。

 この山口副総裁の発言を真に受けるとすれば、FRBのバランスシートの拡大は、金融緩和の程度ではなく、ほぼすべてが金融資本市場=金融システムの安定性を保つためであったことになる。つまりはミクロ的な金融危機政策ではあっても、積極的な景気対策FRBは行っていないことになる。

 しかしこのような発言はまったく「嘘」であることは、当事者であるFRBバーナンキ総裁の10日の発言からも明らかである。

 http://www.federalreserve.gov/newsevents/testimony/bernanke20100210a.htm

 上記の講演で、バーナンキFRBのバランスシートの拡大をもたらした政策は、主に景気対策(金融緩和の程度を示すもの)としてのものであったことを明言しているからだ。バーナンキはこの講演で、はっきりとFRBが行った政策を、前述の山口副総裁の言葉に合わせるならば、金融資本市場の痛みに対応した政策と、金融緩和政策とにわけている。その上で、それぞれがFRBのバランスシートの拡大に帰結している点を認めている。

 そしてゼロ金利に直面したときにFRBはさまざまな資産を購入することでそのバランスシートが拡大していったが、その主要なオペの対象はモーゲージ担保証券(MBS)や長期国債などであることもバーナンキは講演の中で明白にのべている(講演のmonetary policy and Asset Purchaseの節を参照せよ)。そしてこれらMBSや長期国債の購入はまさに金融緩和政策として行われたとバーナンキは(金融資本市場の痛み対策と明確に区別して)発言しているわけである。

 しかもこのFRBのバランスシートの構成を表す図表をみてほしいが、09年冒頭から現在まで、その拡大の主因は、MBSなどや長期国債の購入による金融緩和政策であることが明白である。

 よって山口副総裁の発言はFRBのHPやそのほかの関係者の発言・議会証言などなどを単純にみてもわかる、ただの「嘘」である。まあ、「でたらめ」といってもいいが大きく変わるものではないだろう。

 ところでこの山口副総裁はこれまた以前は、リーマンショックに日本のゼロ年代前半の金融緩和政策が原因になったとしている。もし彼が本気でそう思うのならば、山口副総裁が12月の臨時政策決定会合でデフレ対策で金融緩和政策を無条件に支持したことは単に彼がここでも「でたらめ」であったか、あるいは一種の分裂気質の持ち主であるかのいずれかであろう。

 まったく詭弁もいいかげんにしてほしい

 さてこの山口副総裁の見え見えな「嘘」の指摘で終わってもいいのだが、なぜ彼はこんな「嘘」をいったのだろうか? 池田議員をだませればそれですむと思ったか可能性も否定できない。池田議員にはぜひこの「嘘」に対処してほしい。でないと単に(池田議員や民主党のみならず国民も)なめられているだけである。

 そして山口副総裁の発言をさらに見ると要するに日銀はこれ以上の金融緩和に応じることはない、という姿勢をみせたいのだろう。「嘘」をついてまでである。本当にこの国の金融政策の担当者はどうにかしているといわざるをえない。