ナシーム・ニコラス・タレブ『ブラック・スワン』(望月衛訳)上・下

 ご恵贈いただきました。ありがとうございます。原書はいうまでもなく国際的なベストセラーになり、「ブラック・スワン」は根源的な不確実性を喧伝したにもかかわらず、今般の世界金融危機を当てたとして世間を騒がせてもいる問題作です。

 確かに読み物としては一級品ですが、たぶんこの本はこれから誉める人とかとりあげる人も多いでしょうから、正直な感想を書いてしまいます。「冗長で退屈」。それがこの本にもっともふさわしい形容です。正直いって、上巻はほとんど「スワンはすべて白い、という全称命題ありき。でも黒いスワンがあらわれた。こういう事象は根源的な不確実性であって、通常の経済予測ではとらえられない」という思想をいろいろなエピソードをもとに展開しています。タレブの本としては前作の『まぐれ』の方が個人的には面白かったですね。タレブの本はいつもあまり僕には合わないのです。

ところでタレブよりも知的に洗練されていて、さらにマクロ的な現象をとらえることの成功している、不確実性とリスクをめぐる著作としては、僕は竹森俊平さんの『 1997年――世界を変えた金融危機 』をあげたい。竹森さんの本は、経済政策の処方箋を提供するものとして読んではいけないと思う。むしろまともな経済的思惟とはいえない、奇怪な経済モドキ発言(残念ながらタレブのこの本などはその典型)への解毒剤、対処法を提供してくれる、頼もしい反・反経済学の本としてこそ意義があると僕は思っている。

 なのでタレブのこの本を読む前に竹森さんの本をすすめる。

1997年――世界を変えた金融危機 (朝日新書 74)

1997年――世界を変えた金融危機 (朝日新書 74)