書評:『世界経済同時危機』

 『週刊金融財政事情』に掲載されたもの。

『世界経済同時危機』 原田泰+大和総研日本経済新聞社

 今回の世界経済同時危機は、「100年に一度」という形容でしばしば語られている。しかし本書では、そのような形容は、「100年に一度なら仕方がない」という見方となり、原因究明や対策を怠ることつながる、と批判的だ。また、市場主義や新自由主義の行き過ぎとして、今回の危機をみることにも本書は反対している。むしろ自由な市場は世界経済を豊かにしたではないか。問題なのは、破綻した金融機関や企業への救済のあり方である。なぜなら自由とは、自由な選択を行った人たちが責任を負うことである。失敗のつけを、安易に納税者に負担させるのは自由を損ねるものになるからだ。
この自由の本来的な意義を、世界的な危機の中でどのように市場に根付かせるか。著者たちは、具体的な市場設計をいくつも提案していて刺激的である。例えば、数年前の利益に基づいたボーナス支払いを導入して、短期的な利害にこだわることを緩和する試みなどは面白い。
 ところで新興国や日本などの過剰貯蓄を、米国が吸収し、それがバブルとバブルの崩壊を生んだというグローバル・インバランス論が「通説」のようだ。この「通説」に対して、グローバル・インバランスそれ自体が悪いのではなく、それによって流入した資金を適切に使わなかった金融取引のあり方や、また金融政策が誤っていたことが問題だと指摘している。もっともな主張である。
 本書では、またアメリカ、ヨーロッパ諸国、中国、日本、新興国などの状況が、具体的なデータとともに詳細に検討されていて非常に便利である。世界でいま何が起きているか、そしてどうすべきか。この疑問への率直な答えを本書は提供している。

世界経済同時危機―グローバル不況の実態と行方

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