若田部昌澄『危機の経済政策』

 ご本頂戴しました。ありがとうございます。『経済セミナー』での連載に、今回の世界同時不況を大幅に話題としてとりいれた新刊。失敗を新しい創造のために活用しよう、という「失敗学」のコンセプトを活かし、過去の1世紀の間に経験した20年代末から30年代の大不況、60年代から80年代の大インフレ、日本の90年代から00年代の大停滞、そして現在の経済危機を背景にして、特に政策形成における「思想」の役割に注目した経済思想史・経済政策史の実践的な提言をそなえた一書に仕上がっています。

 特に現在の世界同時不況については最新の包括的な説明になっていて、欧米の政策当局の考え方や政策形成の実際、それに対する経済学者たちの考えが対比されていて便利です。特に歴史に学ぶことの重要性が失敗学的見地から強調されるとともに、また新しい経済学の可能性(バブル、金融規制、マクロ経済学の変貌など)がどのようになるのかを示唆してもいて面白い展望になっています。

 日本には過去に反経済学的な見地から経済学の歩みを書いた佐和隆光氏の『経済学とは何だろうか』や宇沢弘文近代経済学の再検討』という著作群がありましたが(いまでも50代から30代後半まではこの書籍の影響がわりと濃厚でしょう)、本書はそれに対して現今の経済学を歴史(過去)と未来の両軸をみながら描いた新しい経済学の通史としても読めるでしょう。前二者がどちらかというと危機的な経済学者の本だとすれば、若田部さんの本は危機の経済学といえるでしょうね。本書とクルーグマン岩田規久男先生の本を併読することをすすめたいと思います。

危機の経済政策―なぜ起きたのか、何を学ぶのか

危機の経済政策―なぜ起きたのか、何を学ぶのか