原田泰・大和総研『データで見抜く 日本経済の真相』

常に日本経済のさまざまな問題を独自のユニークな視点で実証的に議論している原田泰さんと大和総研の若い大和総研エコノミストたちとのコラボです。誰がどこを書いたか考えずに通読して、後で「犬の耳」の箇所をみてみると、やはり原田さんの書かれた部分が突出して多いのですが、次いで鈴木準さんという方が多く、この人は今後注目したほうがいいような気がしています。

話題は大きく4つに分かれています。1)雇用や経済格差を中心にした日本の国内問題、2)日本の財政問題や金融市場の状況を検討したところ、3)アメリカ、中国、韓国、ユーロ圏などの国際経済情勢、4)世界経済の今後の見通し です。

特に面白いのは第2章の「日本は破たんするのか」にある、原田さんが書かれた「誰が財政赤字を増やしたか」です。これは90年代以降の各政権で、「財政赤字」(通常の公表のような過大発表ではなくて、公債残高の純増=公債の増加率)が増えたのはどの政権だったかを検証しています。ところで公債残高の増加率よりも名目GDPの増加率が上回った時期は、90年代冒頭のバブル経済の余韻が残っていた時期以外では、05ー08年が「安定」していたのはよく知られています。この事実だけみると小泉政権後期から安倍、福田政権までが「財政赤字」を増やしていないようにみえます。この表層的な流れだけではなく、原田さんは「景気の持続と長期の政府支出コントロールが必要」であると述べています。

民主党の政権(鳩山前政権)では公債発行額が、マニフェストの試算よりも5兆円以上余計に増えていると原田さんは指摘しています。つまり民主党マニフェスト通りにやれば公債発行額は増えて当たり前だったが、その予測をはるかに上回った「無駄」な発行があったというわけです。その理由は景気の悪化によるもの(これは不可避)、もうひとつは政治の失敗(政府の総支出コントロールを放棄して、各省の政務三役に任せたのが失敗)です。ただし今後については総支出コントロールの芽があると原田さんは少しだけ楽観的です。

日本の財政問題を検討する際には、やはり政府の総支出の長期的スタンスを明瞭にすること、そして景気の持続がどうしても必要で、これの両輪がなくてはいけないでしょう。そしてそれがうまくいっていなかったのがこの20年の大半だったわけですが。

「投資ベタな国、日本」は先ほどの鈴木さんが書かれたところで、日本の資本市場の整備の遅れが、今回の金融危機による政策金融の再復活によってますます遅れることが指摘されていておおいにうなづくところでした。

原田さんの書いた「韓国経済はなぜ急に発展したか?」jは熟読すべき章だと思います。

韓国経済の急回復は以下のシナリオです

97年のアジア経済危機→公共投資や民間投資の急減。民間投資は回復しても低水準のまま →為替レート急落 →ドルで測った賃金下落→安い賃金で経済を回せる(=投資効率がよくなり労働集約的な生産方式でも競争力をもつようになる)⇔雇用問題の深刻化はドル建て賃金の下落による一部の輸入品と競合している産業、競争力の低い輸出産業をサバイバルさせたことで回避したということ

日本は円高指向が強いためにこのシナリオとはまった逆の田中風の表現をすればマゾ体質に落ち込む。日本は円高の上昇によって資本集約的な投資をせざるをえなくなった。よりそのような部門に投資すれば資本効率を低下させていった、というのが原田さんの推論です。わざわざ円高によって自虐的な経済構造に突き進むというのが日本の長期的なトレンドのようですね。

本書の後半の各国経済分析はこれからの見取り図を簡潔に提供するのでぜひ一読したほうがいいと思います。

データで見抜く日本経済の真相 日本は決して終わらない

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